映画『東北記録映画三部作』に見る地方の可能性 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年4月16日 12時3分
ではどうして「震災の映画」なのに「民話」なのでしょうか?
2つあるように思います。1つは、民話の持っている庶民の生命力ということです。東北の民話というのは、過酷な自然と社会環境の中で人々が生き抜くための知恵が込められている、小野和子氏はそう語っていました。小野氏は「多くの研究者は語り部にアポを取って、一定の時間語らせることが民話の採集だと思っている」一方で、「自分は一切アポなしで山や海の村に入っていって、人間関係を築いて民話だけでなく生活の思いを含めた彼等の人生を聞き出してきた」のだそうです。
その小野氏を慕って集まった伝承者たちの語りは、実に活き活きとこの地方の人々の生命力を伝えていました。そのパワーにこそ、復興への原動力が感じられ、正に3部作の完結編にふさわしいというわけです。
もう1つは、親しい者同士の濃密な語りの空間です。最初の2篇で被災者同士の語りがどんどん濃密なものとなっていく奇蹟を経験した観客は、この3作目で民話の語りの世界に触れることで、この地域の文化が持っている濃密な語りのカルチャーの原点を見出すことになります。その意味では、3作目の存在が、1作目、2作目を見ることで観客が抱く「どうして、こんなに濃密な語りが生まれるのか?」という問いかけへの謎解きを担っているというわけです。
私は、この1週間、この3部作とその製作者の人々と関わりあうことで、震災の問題だけでなく、今後の地方の活性化の問題にも答えを得たように思いました。
日本という国は、国土の狭さとは裏腹に、極めて多様性を持った国であると思います。それぞれの地方が、独自の言語と独自のカルチャーを持っているのです。
その地方の言語やカルチャーは、まさにこの3部作が具現化しているように「濃密な語りの空間」つまり「人間と人間の関わりあう場」を持っているわけです。言い換えれば「関わり方のスタイル」がイコール「地方のカルチャー」であるとも言えます。その「関わり方のスタイル」に、コミュニティ再生の原動力があるのだと思います。
もちろん地方のカルチャーがユニークであることは、同時に排他性にもなるし、また排他性を乗り越えて「よそ者」が土足で踏み込むことが地方のアイデンティティを破壊する危険性もあるわけです。ですが、地方という「人と人が関わる場」が機能していれば、「よそ者」も入っていけるし、そこで何かを生み出すことも可能になるのだと思います。
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