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ロシアの脅威が生んだ電子大国エストニア

ニューズウィーク日本版 / 2015年4月16日 17時0分

 アプリケーションのテストサービスを提供するエストニアの新興企業テストリオは先月、アメリカの投資家から100万ドル(94万5000ユーロ)のシード資金を調達した。エストニアは人口125万人の小国だが、最近ではこうしたニュースは珍しくない。

 テストリオの資金調達の数週間前には、ピアツーピアの融資サービス会社ボンドラがアメリカの投資家から450万ユーロの投資を受けた。オンライン送金サービスのトランスファーワイズもエストニア生まれのベンチャーだ。ヴァージングループの創業者リチャード・ブランソンとベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ、そしてペイパルの共同創業者ピーター・シールは同社に4800万ユーロを投じている。

 ヨーロッパ8カ国で事業展開し、20万人以上の登録ユーザーを誇るタクシーの配車アプリ運営会社タクシファイもエストニアに本拠を置く。同社はアメリカとヨーロッパの投資家から先日140万ユーロの資金を調達した。創業者のマルクス・ビリクがこの会社を立ち上げるのに必要としたものは、エストニア人なら誰でも持っている電子IDカード、1台のパソコン、クレジットカードのみ。ビリクはデスクに向かって、たった数分間で登記手続きを済ませた。

 ヨーロッパの辺境とも言うべきエストニア。隣のロシアが常にこの小国に睨みを利かせている。しかし、トーマス・ヘンドリック・イルベス大統領率いる現政権は、こうした悪条件を克服して、世界に名だたるベンチャー王国を築いてきた。現在、発足したての新興企業は350社。人口3700人当たりに1社の割合だ。政府は2020年までに1000社の新企業育成を目指している。

 エストニア生まれのIP電話サービス、スカイプが大成功したことで、優秀な人材がベンチャーに関心を持ち、起業ブームが起きたとビリクは言う。「10年前にはみんな大企業に就職したがっていたが、今では僕の友人はほとんど起業している」

 シリコンバレーの新興企業はインキュベーター(起業支援事業者)から初期資金を調達した後、ベンチャーキャピタルから何百万ドルもの投資を受けられるが、エストニアの起業家はクラウドファンディングや政府の助成金を頼りに事業を始める。彼らがアメリカとヨーロッパの大手ベンチャーキャピタルから資金を調達できるよう、政府系の起業支援機関が売り込みのノウハウを教えている。

 世界繁栄指数を発表しているシンクタンク、レガトゥム研究所(本部ロンドン)のハリエット・モルトビーによると、起業のコスト、法の支配など、起業に有利な環境整備では、エストニアはイギリスにかなわないという。「それ以上にエストニア人の起業を妨げる最大の障害は人々の認識だ」と、モルトビーは指摘する。「昨年の調査によると、自分の国には起業に適した環境があると答えたイギリス人は70%だったが、エストニア人は51%だった。イギリスと並ぶヨーロッパの新興企業の中心地になるには、エストニアはまず自己イメージを変えるべきだ」

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