第五福竜丸の死因は「死の灰」ではなかった - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2015年5月1日 11時9分
今年の日本記者クラブ賞の特別賞に、南海放送(愛媛県)の制作したテレビ番組「放射線を浴びたX年後」が選ばれた。受賞理由は「太平洋での米国の水爆実験による漁船被ばく問題を10 年以上も番組や映画を通じて追及した」となっている。
地方民放がドキュメンタリーを制作することは困難であり、しかも60年前の事件を取材するのは大変だったと思う。私はその番組を見ていないが、1954年にビキニ環礁で核実験による「死の灰」を浴びた静岡県の漁船「第五福竜丸」の事件を追跡し、その他にも多くの漁船が核実験で被曝した事実を明らかにしたものだ。
第五福竜丸は水爆実験の立入禁止海域で操業していたため、核爆発によって飛散した大量の放射性物質を浴びた。この結果、乗組員23人に放射線障害が起こり、そのうち無線長の久保山愛吉が半年後に死亡した。これを読売新聞が「死の灰の犠牲者」と報じ、放射能の危険性を示す出来事として、世界的なニュースになった。
しかし病理解剖によって判明した久保山の死因は肝炎であり、放射線で起こる病気ではない。高田純『核爆発災害』によれば、久保山の肝臓に蓄積されていた放射能は130ベクレル/kgで通常の値(120ベクレル)とほとんど変わらなかった。
他の22名の船員についても放射線医学総合研究所が長期にわたって追跡調査をしたが、2003年までに死亡した12名の内訳は、肝癌6名、肝硬変2名、肝線維症1名、大腸癌1名、心不全1名、交通事故1名で、ほぼ全員に肝機能障害がみられた。放医研は2005年の年報で、次のように報告している。
船員の被曝した推定線量は1.7~ 6.0Gyであった。最近では平成15年5月に1名が肝癌で死亡、これまでに死亡者12名となった(内訳は肝癌6名、肝硬変2名、肝線維症1名、大腸癌1名、心不全1名、交通事故1名)。肝機能異常が多くの例に認められ肝炎ウイルスの検査では、陽性率が非常に高い。しかし、腹部造影CT検査などでは肝細胞癌などの悪性腫瘍の所見は認めなかった。
また2008年の年報では以下のように述べている。
私どものこれまでの研究調査の中では、おそらく免疫機能がかなり落ちていた為にウイルス感染に影響していた可能性があると考えていますが、具体的にどの程度影響があったのかという事は私どもの調査では分かっていません。ただ、おそらく可能性として、肝臓障害の比率から輸血による障害の可能性があったであろう、と考えています。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
「知って、肝炎プロジェクト」特別大使・伍代夏子「早期発見・早期治療を」広島県庁を表敬訪問
スポーツ報知 / 2024年5月15日 6時0分
-
「アンコウは健康と美容に良い魚」水揚量は22年連続の日本一!下関でアンコウ供養祭
KRY山口放送 / 2024年5月10日 20時31分
-
原点に戻ることの大切さ 核のない世界を諦めない その6
Japan In-depth / 2024年5月2日 17時0分
-
ビキニ事件70年、三浦の市民集会に300人来場 三崎港も打撃「世界とつながっている」
カナロコ by 神奈川新聞 / 2024年4月27日 22時25分
-
日本人の食生活に入り込む「海の奴隷労働」の実態 タイの人権活動家が語る、過酷すぎる漁の現場
東洋経済オンライン / 2024年4月21日 8時0分
ランキング
-
1「安倍元首相、不安あおった」=文前大統領が回顧録―韓国
時事通信 / 2024年5月18日 20時53分
-
2イスラエル軍、ガザ北部ジャバリヤ侵攻「これまでで最も激しい戦闘」…戦闘員200人殺害と主張
読売新聞 / 2024年5月18日 22時7分
-
3ロシア、ハリコフ州でさらに1集落制圧=ウクライナ北東部、1万人避難
時事通信 / 2024年5月19日 8時26分
-
4「社会へ強いメッセージを伝える人に与えられる」“建築界のノーベル賞”プリツカー賞授賞式に山本理顕さん出席 日本人9人目の快挙
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月19日 11時13分
-
5ウクライナ、追加動員準備整う 「一部が前線で戦う過去終わる」 規模・時期、国民焦点に
産経ニュース / 2024年5月18日 18時32分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください