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第五福竜丸の死因は「死の灰」ではなかった - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2015年5月1日 11時9分


 このように彼らの症状は、輸血が原因だったと推定される。当時は売血された血液を輸血に使い、注射針も使い回していたので、肝炎に感染したものと考えられる。特に急性の放射線障害の出ていた久保山は、全血液を輸血で入れ替えたため、血液感染で肝炎になった疑いが強い。

 南海放送の番組では、核実験の当時マーシャル諸島の近海にいた日本の漁船の乗組員に取材し、操業していた992隻の漁船のうち、548隻が放射性物質を浴びたという。しかし立入禁止区域の中で操業していたのは第五福竜丸だけで、それでも爆心地から150kmも離れていたので、それ以外の漁船にそれほど多くの「死の灰」が降ったとは考えられない。

 しかも500隻以上の船が被災したとすれば、乗組員に多くの癌が発生するはずだが、南海放送の調査した241人の乗組員のうち、死者は77人で、そのうち癌による死者は26人だったという。日本人の3人に1人は癌で死ぬので、これはその平均値に近い。

 アメリカ政府も追跡調査を行なったが、ビキニ環礁の周辺にいた船の中で肝機能障害が大量に発生したのは第五福竜丸だけで、マーシャル諸島の住民にも核実験を行なった作業員にも、発癌率の上昇はみられない。

 しかし当時メディアが「第五福竜丸の悲劇」を派手に報道し、世界にもその名前が知られたため、核兵器=核実験=核物質というイメージができ、「死の灰」の神話が一人歩きしてしまったのだ。この事件をヒントにして、核実験による突然変異で生まれた怪獣として活躍したのがゴジラである。

 もちろん核兵器の破壊力はきわめて大きく、核軍縮は必要である。核実験も、最近は地上では禁止されている。しかし放射線のリスクは、当時考えられていたほど大きくないことがわかってきたのだ。原爆投下後に広島市や長崎市に入った人も大量の「死の灰」を浴びたが、彼らの平均寿命は全国平均より長い。

 数千ミリシーベルトの放射性物質を浴びた第五福竜丸の乗組員の健康被害がこの程度なのだから、1ミリシーベルト程度の除染に巨額の予算をかけるよりも、被災者を帰宅させて生活を正常化したほうがいい。被爆国として世界に影響力をもつ日本から、正しい情報を発信することが、歴史に対する日本人の使命だろう。

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