「たられば」の空想で財政再建を放棄する安倍首相 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2015年6月4日 19時5分
政府が6月末に決める2020年度までの財政健全化計画が、大詰めを迎えている。「景気がよくなれば税収は増える」という安倍首相に迎合する民間議員は、1日の経済財政諮問会議で「歳出削減ではなく成長率を上げて税収増をはかるべきだ」と提言し、安倍首相は2018年にプライマリーバランス(PB)の赤字を対GDP比で1%とする「中間目標」を明言した。
歳出を削減しないで財政赤字が減るなら結構なことだが、そんな夢のような話が可能なのだろうか。日本の政府債務はGDP(国内総生産)の233%で、第2次大戦後のイギリスの250%に次ぐが、平時としては世界記録だ。イギリスの政府債務は戦争が終わると減ったが、日本はこれから超高齢社会になるので、債務はさらに膨張する。
図1 国・地方の基礎的財政収支(内閣府のシミュレーション)
図1は現在の健全化計画のもとになっている内閣府のシミュレーションだが、平均3%以上の名目成長率を想定した「経済再生ケース」でも、2020年度にPBは1.6%の赤字だ。成長率1.5%程度の「ベースラインケース」だと赤字は20年度に3%になって増え続け、政府債務は発散する。
「名目成長率が大きく上がったらPBが黒字になる」というのは論理的には正しいが、問題は何%の成長率が必要かである。歳出が増え続けるのを放置して成長だけでPBを黒字にするには、5%以上の名目成長率が必要だ。
名目成長率というのは実質成長率+物価上昇率(GDPデフレーター)だが、図2のようにここ10年の平均では名目成長率は0.6%である。2%以上の成長率は、1980年代のバブルのときが最後だ。2014年の実質成長率はゼロなので、名目成長率=物価上昇率である。
図2 名目成長率と物価上昇率
日本の労働人口は毎年1%以上減っているので、これに近い状況が今後も続くと思われる。したがって名目成長率を5%以上にするというのは、5%以上のインフレにすることに他ならない。『21世紀の資本』で話題になったトマ・ピケティも来日したとき、「日本のような巨額の政府債務を増税で正常化した国は歴史上ない」といい、「5%程度のインフレを10年続ければ政府債務は半減する」と提言した。
それも論理的には可能だが、歴史上5%ものインフレが安定して続いた前例はない。これは金融資産が10年で半分になることを意味するので、外貨や土地などへの資産逃避が始まり、円安・インフレが加速する。それはすでに始まっており、今のドル高の一つの要因だ。
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