「たられば」の空想で財政再建を放棄する安倍首相 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2015年6月4日 19時5分
日本は終戦直後に400%以上のインフレにして、戦時国債を紙切れにした。イギリスは70年代に20%台のインフレで政府債務を踏み倒し、財政は助かったが経済は破綻し、ヨーロッパの最貧国になった。つまりインフレとは、巨額の大衆課税なのだ。
日銀が国債を無限に買えば今の状況を続けることができるが、このような財政ファイナンスは財政規律をゆるめてさらに財政赤字を拡大する、というのが歴史の教訓だ。そういうときの政治家の決まり文句が「景気がよくなれば税収は増える」である。
「日銀の買う国債は政府が政府に金を貸すのだから政府債務から引き算できる」という説があるが、そんなことが可能なら、税金を廃止して歳出をすべて国債でまかない、それをすべて日銀が買えば「無税国家」ができる。
そんなフリーランチはない。今月に入って長期金利が急上昇し、0.5%を超えた。もし日銀の望み通りインフレ率が2%になると、長期金利はそれ以上になり、日銀は30兆円以上、民間金融機関は10兆円以上の評価損をこうむる。財政破綻で起こるのは、金融危機なのだ。
「成長率が5%になれば」とか「5%のインフレが10年続いたら」という空想をもとにして財政運営を考えるのは、財政再建を放棄するに等しい。政府債務を正常化するには、消費税なら30%ぐらい上げる必要があるが、コントロール可能だ。「インフレ税」はコントロールできず、国民生活を破壊する。
2012年末に安倍首相は「輪転機をぐるぐる回してお札を印刷すれば日本経済は回復する」と宣言して「大胆な金融緩和」に打って出たが、成長率もインフレ率もゼロだ。リフレ派の予言は、ことごとく外れた。もう嘘つきを信じるのはやめ、現実を直視してはどうだろうか。
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