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シリコンバレーが起業家を殺す

ニューズウィーク日本版 / 2015年7月15日 18時52分

 カンザスシティーの商工会議所は4年前、「アメリカで最も起業家精神に富む都市」を目指して、スタートアップ支援事業を立ち上げた。だが、「十分な資金が集まらず、多くの企業が撤退していった」と、テリー・ダン会頭はうなだれる。

 考えてみれば、単純な話だ。ベンチャー資本の供給には限りがある。シリコンバレーに流入する資金が増えれば、当然他の地域に回る資金は減る。

 もっとも、シリコンバレーでも新たに設立される会社の数は95〜00年のドットコムバブル期と比べると減っている。つまり、かつては全米の新興企業に広く薄く配分された資金が、今ではシリコンバレーの少数のベンチャーに集中しているということだ。その結果、シリコンバレーの新興企業の時価総額が異常に高く見積もられることになる。配車サービスアプリのウーバーが推定500億ドル、社内チャットアプリのスラックが30億ドルといった具合だ。

地方都市が取り残される

 こうなったのも、デジタル化が急速に進んだからだ。今や生活やビジネスのあらゆる面にデジタル技術が浸透している。ハイテクとは無縁とみられていたタクシー業界にも、ウーバーやリフトのようなアプリサービス会社が参入、破壊的なイノベーションが進みつつある。

 あるビジネスをデジタル化し、クラウド上で展開すれば、短期間に市場を独占できる。クラウド上で提供されるサービスは、あっという間に世界中に普及するからだ。新サービスが定着し、潤沢な資金を調達できたら、他社の参入をほぼ確実にシャットアウトできる。

 賢い投資家はそれを知っているから、二番煎じの新興企業には投資したがらない。そのため、多くの起業家は起業のチャンスすら得られなくなる。

 IPO(新規株式公開)を先送りにして、未上場のまま巨額の資金を調達するスタートアップ企業が増えていることも資金の集中につながる。未公開株取引では、少数の投資家が投資先を決めることになるが、そうした投資家の多くはシリコンバレーに拠点を置いているからだ。

 今のアメリカで、わずか1%の富裕層に富が集中しているのは周知の事実。さらに、地理的にも資金が集中しつつある。資金不足で起業家精神が失われた地方都市は、技術革新からますます取り残される。

 アメリカ・オンライン(AOL)の創業者スティーブ・ケースはこうした状況を危惧し、バスで全米を回って起業アイデアコンテストを実施している。

「アイデア豊富な素晴らしい起業家なのに、資金不足に泣かされている人たちがいる」と、ケース。彼らを支援するケースの奮闘が、いささかドンキホーテ的に見えるのが悲しい。

[2015.7. 7号掲載]
ケビン・メイニー


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