中国の軍事的膨張で変容する太平洋の秩序 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2015年7月23日 19時4分
安保国会は山場を超え、あとは参議院の審議を残すのみとなった。9月までの会期で可決できなくても衆議院で再可決できるので、実質的には決着がついた。安倍内閣の支持率は低下して不支持率と逆転したが、この程度は織り込みずみだろう。9月の自民党総裁選でも対立候補の出る見通しはなく、安倍首相の基盤は盤石だ。
他方、「徴兵制が復活する」などと事実無根の宣伝を繰り返し、「戦争法案」を攻撃するプラカードを掲げて騒いだ野党の支持率も低下し、国会は55年体制より極端な自民党一強体制になりつつある。このように野党が弱体化した最大の原因は、「憲法を守れ」という1枚看板しかなくなったことだ。
日本をめぐる国際情勢は戦後70年に大きく変わった中で、対案なしに批判ばかりしても説得力がない。そういう発想を象徴しているのが、今回の反対運動のリーダーである杉田敦氏(法政大学教授)だ。朝日新聞の長谷部恭男氏(早大教授)との対談で、杉田氏はこう語っている。
野党は、「違憲だ」と言うだけで十分責任を果たしています。裁判になぞらえれば、検察官である政府・与党の「これが犯人だ」という主張には根拠がないと指摘するのが、弁護士である野党の役割で、立証する責任はあくまで政府・与党の側にある。「批判するなら対案を出せ」という政府・与党の論法は、検察官が弁護士に「批判するなら真犯人を見つけてこい」と言うようなもので筋が違う。
これは戦後ながく続いた万年野党精神が、杉田氏のような政治学者にまで浸透していることを示していて興味深い(長谷部氏も否定していない)。たしかに野党が弁護士のように決して検察官になる可能性のない万年野党なら、反対するだけで十分だ。幸い、杉田氏が応援するような党が政権をとる可能性はゼロである。
東アジアでは中国が急速に軍備を拡大し、シーレーンでも海賊行為が連発している今、日本の国土の中だけで国民を守ることはできない。安保法制が憲法違反だというなら、憲法を改正するのが当然だ。戦後70年たっても、昔の戦争が「侵略戦争」だったかどうかを議論し、それを「謝罪」することを国会で論議するのは、老人には興味があるかもしれないが、これから21世紀を生きていく世代には、どうでもいいことだ。
ヘンリー・キッシンジャーは近著『世界秩序』(未訳)で、20世紀の「正しい戦争か侵略戦争か」という考え方を捨て、力の均衡で現状を維持するリアリズムを説いている。国際政治は理想や善意ではなく国家の均衡で決まるものだ。1928年の不戦条約で「正しい戦争」という概念は廃止されたはずだったが、その後も世界大戦は起こり、冷戦は続き、国連は国際連盟と同じく無力である。
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