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いま必要なのは途上国型の「戦時レジーム」の清算だ - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2015年7月30日 17時17分

 国連は、世界の人口が2100年に112億人に達すると予想する報告書を発表した。人口が世界最大になるのはインドの16億6000万人で、2位の中国は10億400万人。日本は8300万人で、労働人口が全人口のほぼ半分になる。労働人口は毎年1%ずつ減っているので、10年後には実質GDP(国内総生産)はマイナス成長になるだろう。

 ただ一人当り成長率はプラスを維持できるだろう。人口密度も下がるので住みやすくなるが、全国の密度が一律に下がるわけではない。地方の過疎地は無人化してインフラが維持できなくなるので、放棄するしかない。「地方創生」と称して全国に公共事業をばらまく政策はやめるべきだ。

 他方で大都市には人口が集中して高齢化が進む。東京都の人口分布のピークは25年後には60~65歳になり、高齢者が143万人も増える。これに老人ホームなどの増設で対応しようとしても、現役世代の減少で税収も減るので、都市財政が破綻する。国立競技場に2500億円も出す予算があれば、老人用の安い賃貸住宅を大量につくるべきだ。

 今の社会保障制度を放置すると、2035年には現役世代の可処分所得は激減し、給料の6割が天引きされるようになり、2075年には可処分所得がマイナスになる。もちろんそんなことは不可能なので、このまま放置すると2020年代に社会保障は破綻するが、与野党ともにこの問題にはふれない。

 最大の問題は、富の分配が大きく片寄ることだ。非正社員の比率は遠からず4割を超え、その賃金は正社員のほぼ半分だ。金融資産の65%を60歳以上がもっているので、富はますます高齢者に偏在する。成長しないのではなく、若者や非正社員は絶対的に貧しくなり、都市にはホームレスがあふれるだろう。

 それでも年金は支給額や積立金で調整できるが、医療や介護はすべて同世代でまかなう賦課方式なので、現役世代の負担は激増する。今は赤字を一般会計の社会保障関係費で埋めているが、これが一般歳出の最大の部分を占め、財政赤字がさらに悪化する。1100兆円を超える政府債務が破綻するのは、時間の問題である。

 だから格差の拡大を防ぐために成長は必要だが、「成長戦略」で問題は解決しない。安倍政権の「名目成長率3%で財政再建」という方針は時代錯誤もはなはだしい。必要なのは経済を大きくすることではなく、与えられた人的・物的資源を効率よく使うことだ。

 これを「産めよ殖やせよ」や移民の受け入れで解決することはできない。今の社会保障のゆがみが大きくなるだけだ。それより医療や介護も民営化し、年金もなるべく民営に移行し、将来は負の所得税(ベーシック・インカム)のような年齢に依存しない制度に変えるしかないが、これも政治が手をつけようとしない。

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