中東にとっての「広島・長崎」 - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2015年8月7日 20時5分
そうなのか。被爆の教訓は本当に、私たちが抱いてきた「過ちは2度とくりかえしませぬから」の思いから程遠い形でしか、中東に伝わっていないのか。
今年春、エジプトの大手紙「アハラーム・ウィークリー」に、カイロ・フランス文化センターが主催する「若手クリエーター・フェスティバル」の記事が掲載されていた。そこで、若手による優れた演劇として取り上げられた作品のひとつに、井上ひさし原作の「父と暮らせば」がある。新進気鋭のムハンマド・ハミースが演出、主演した舞台で、昨年秋、国際交流基金の後援を受けてアレキサンドリアで上演されたものだ。今年初めには、「はだしのゲン」のアラビア語訳がカイロで出版されている。昨年初来日を果たしたパレスチナのラップグループ、DAMは、「沖縄に連帯!」と叫んでいた。
「広島、長崎を見たい」という中東からの客たちに、私たちの被ばくからの教訓を、どう伝えるか。反米にも核開発競争にも力による敵の殲滅にも利用されない、ただ「2度と繰り返してはならない」意識で、つながり合う方法はあるはずだ。世界とどうつながるかを考えることは、私たち自身が自分たちの「戦後」を、きちんと認識することに他ならない。
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