シカ被害と電気柵、アメリカの事情は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年8月20日 16時0分
具体的なシカの被害としては、まず交通事故があります。車に慣れていないシカは、自動車との衝突事故をよく起こして車にダメージを与えることから大きな問題になっています。州の全域でシカの通り道には「シカ注意」の交通標識があるのですが、それは豊かな自然があるということではなく、社会的にシカ問題に困っていることの証明なのです。
これに加えて、日本と全く同様に農業や園芸への被害があります。さらに最近良く言われているのが、シカに寄生したダニを通じて、感染症伝染の原因となっているという問題です。州政府は特にこの点を問題視しており、郡によっては、ハンターに対して「規定の頭数のシカを射殺しないと狩猟免許を更新しない」という強制措置を発動しているのですが、なかなか効果は上がっていません。
一方で、民主党の強い「ブルー・ステイト」であることは、動物愛護団体の活動が盛んな地域ということも意味します。そのために、州政府の「シカ狩り増強作戦」に対する批判も強く、市町村レベルになると猟友会より愛護団体が強いところもあります。そこで、州政府としては狩猟の促進のできない地域では、薬物を利用した不妊処理作戦を進めることになりましたが、こちらの方は注射1本で500ドル以上というコストの問題がバカになりません。
ちなみに、日本のような電気柵の使用はどうかというと、中西部では本格的なものがかなり使用されているのですが、ニュージャージー州のような人口密集地域では安全面での懸念があることからあまり使われていません。そのかわりに、大規模な農場では丸太で外枠を作り、太い針金を網のように巡らせた本格的な「シカ柵」(高さ3メートルぐらい)で対策を取っており、ここ数年あちこちの農場で見かけるようになりました。
いずれにしても、銃や狩猟のカルチャーと動物愛護のカルチャーが正面から対決していたり、地域差を作っていたりするアメリカの状況は日本のお手本にはなりそうもありません。日本の場合は、野生動物との共生と適切な管理という方向で、社会的な合意形成を図っていって欲しいと思います。
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