チェ・ゲバラから「ピッチ」の秘訣を学ぶ
ニューズウィーク日本版 / 2015年8月26日 18時30分
カリスマ的人間は、常にとてつもない自信をもっている。運命として自らに降りかかってくる何もかもを処理できるかのように振る舞う。その一方で、こうした人物は、他者を深く信頼する姿勢を示し、この信頼が人々を奮い立たせる。マーガレット・サッチャー首相の側近ティム・ベルは、彼女について私にこう語った。
「彼女はとても特別な人でした。彼女は、『あなたを雇ったのは専門家だからです。だから私は、あなたが言ったとおりのことをするつもりです。仕事の指示を私に仰いだりしないでください。そのために雇ったんですから』というわけです。彼女は専門分野では全権を委ねてくれましたが、自分の仕事には口出しさせませんでした。口出ししようものなら痛い目にあわされます。『減税すべきでは』などと進言しようものなら、『誰があなたを選んだの?』と返されたでしょう」
カリスマ性には、感じられるが目には見えないという不思議な性質がある。見えなくても、ありありとあるのだ。カリスマ性を定義するには、それを持つ人物を特定するしかないように思える。近年のもっとも有名なカリスマ的人物の一人は、チェ・ゲバラだろう。キューバを訪れれば、彼の顔が金属に彫られていたり、ハバナのメイン・スクエアの数階建てのビルの外壁いっぱいに描かれていて唖然とする。千種類を超えるTシャツを生み出し、キューバのみならず世界中の人々に抑圧からの開放のメッセージをもたらしたのが、あの顔だった。
ゲバラはカリスマの要素をすべて備えていた。理想に燃え、自由のために戦い、勝利し、そのうえハンサムだった。さらに、若くして死んだせいで、よりいっそう伝説的地位を確実なものにした。ジェームズ・ディーンとマリリン・モンローも、悲劇的だったとはいえその好例である。
カリスマとは、そういうことなのか? ハンサムで早死にすればカリスマになれるのか。ゲバラだけなら、そう思えるかもしれない。だが、ゲバラの革命仲間のフィデル・カストロはどうだろう? もちろん彼も偉大なカリスマだが、ゲバラほど外貌に恵まれていないからといって、みんなとやかく言ったりしないだろう。
もう一人の偉大な政治指導者として、カストロと同じく容姿に恵まれなかったウィンストン・チャーチルがいる。言うまでもなく、彼の戦争指導者としての偉業は素晴らしかったが、チャーチルにはそれ以前から確固たるカリスマ性が備わっていた。彼が戦時に見事なリーダーシップを発揮したのは、そのカリスマ性ゆえである。第二次大戦後、チャーチルの跡を継いだクレメント・アトリー首相は、おそらく近代政治史上もっとも冴えず、もっともカリスマ性に欠けた人物だと言われている。だが、二〇世紀の平時の政治においてもっとも重要な功績といえる福祉国家の建設は、ほとんどアトリーが独力で行なったものだ。カリスマ性がどういうものであれ、チャーチルにはあり、アトリーにはなかった。つまり、カリスマ性は功績とは無関係であり、人間のあり様と関係しているものなのだ。
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