遺伝子組み換え技術への不安に応える──食糧増産を目指すモンサント
ニューズウィーク日本版 / 2015年9月8日 15時0分
2012年の見学会の様子 (日本モンサント社から提供)
しかし遺伝子組み換え作物に対して、日本モンサントの山根精一郎社長は「見えないもの、分からないものに不安を抱くのは当然です。それを解消する情報提供を続けます」と述べた。
同社は機会があるごとに、社員がさまざまな場で、この作物の説明をするという。そして茨城県にある実験農場で、見学会用に遺伝子組み換え作物を栽培し、公開している。「『肉や野菜などの遺伝子を体に取り込んでも分解され体に影響はない』『遺伝子をつくるタンパク質は分解されアミノ酸になる』『人体の影響はこれまで報告はない』。科学事実を順序立てて説明すると、たいてい安全性について理解していただけます」。
肌で感じることも理解を促進する。この農場では実際に遺伝子組み換え害虫抵抗性トウモロコシを栽培し、殺虫剤を使わない遺伝子組み換えトウモロコシと、非遺伝子組み換えトウモロコシとの違いを見比べ、害虫の被害がなくなるのを見て、実感してもらう。さらに今年は収穫された遺伝子組み換え害虫の抵抗性のあるスイートコーンの試食会も行った。
「感覚からも、安心をしていただきたいと考えています。消費者の皆さまに私たちの技術、そしてそれを使う私たちへの信頼感を持っていただければうれしいです」と、山根氏は語る。ステイクホルダー、消費者の理解を深める同社の情報公開の取り組みを、ぜひ続けてほしい。遺伝子組み換え技術への不安は根深いものであるからだ。
世界的な食糧不足を技術で乗り越えられるか?
日本では農業の姿が大きく変わろうとしている。競争、規制緩和、そして輸出による海外市場の拡張を目指して、農家も政府も動く。日本では一部条例による規制があることに加えて、消費者の懸念が強く、遺伝子組み換え作物の商業栽培は行われていない。「北海道などの大規模農家などは、生産コストを下げる遺伝子組み換え作物に大きな関心を示しています。消費者の皆さんの理解を深める取り組みを重ねます」という。近いうちにその栽培の是非をめぐって、社会的な議論が起こるかもしれない。
そして世界の農業も変わろうとしている。人口の増加や、肉食の増加で、2050年には現時点の2倍の穀物が必要になると推計されている。穀物の増産は急務だ。モンサントは2030年に大豆、トウモロコシ、菜種、綿など5品種で、単位面積当たりの収穫量を2000年の2倍にする目標を掲げる。農薬などの「作物の保護技術」、「バイオテクノロジー」、交配などで遺伝的に生物を改良する「育種」の改善など、同社の強みを進化させるという。
また農業をめぐる天候、技術などをビッグデータとして集め、栽培に最適な情報を提供するサービス、微生物を活用する新技術もビジネス化する予定だ。「途上国の農業では病虫害などで、収穫が可能な量から3~7割減っているとされます。それを改善すれば収穫量の倍増は可能です」と、山根社長は希望を述べた。
山根社長は語った。「私たちの技術、そして企業活動を知っていただきたい」。食糧をめぐる環境は世界でダイナミックに動いている。その動きの中心に、モンサントはいる。私たち日本も輸入品の利用や国内での栽培の是非をめぐって、モンサントの持つ技術、特に同社の提供する遺伝子組み換え作物、農薬、農業生産技術に向き合い、決断をすることになる。その熟議のために、同社に注目していきたい。
(取材・執筆:石井孝明)
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