心が疲れると、正しい決断はできない
ニューズウィーク日本版 / 2015年9月30日 16時5分
さらに、性別や人種による差別意識や頑迷な敵対感情などの文化的バイアスもある。こうしたバイアスに気づき、それを正すことは、良い判断をするうえで非常に重要なことといえる。
自動システムの限界を越えるには、「被制御システム」を使うのがよい。このシステムは、これから起こるシナリオを推測し、リスクとコストを評価しつつ、より多くの情報をもとにした詳細かつていねいな分析を行い、私たちの直感的な反応の是非を判断する。
心のエネルギーを使い果たさないために
問題は、自動システムによる決断を覆すのが容易ではないことだ。被制御システムが働くときには、精神力が消耗する。意識的に考えれば考えるほど、心のエネルギーが費やされていくのだ。エネルギーが底をつくと、時間をかけたにもかかわらず、当初の直感的な決断に戻ってしまう。
さまざまな実験から、心のエネルギーが空になると、衝動を抑制したり、熟考したりすることが難しくなることが分かっている。そのことをおそらくもっとも厄介なこととして描き出したのは、イスラエルの心理学者シャイ・ダンジガーらによる裁判官を対象にした研究だろう。
受刑者の仮釈放を審理していた裁判官たちは、開始直後は寛大であり、3分の2の受刑者に仮釈放を言い渡していた。ところが、休憩を入れず、飲食もせずに根を詰めて審理を続けたところ、後半になると仮釈放者数がゼロに近くなっていった。被制御システムによる思考を長時間続けた結果、裁判官は心のエネルギーを使い果たし、現状維持という決断に流されるようになったのだ。
こうした実験結果は、私たちの仕事の仕方に大いなる示唆を与えてくれる。私たちの決断に偏りが出てきて、それを正すだけの心のエネルギーが尽きているようだったら、より良い決断のために心のリソースを維持することを心がけるべきだろう。
より良い決断をするためには、正しい分析のプロセスを踏んだり、情報の正しさを検討するだけでは足りない。精神状態を健全に保たなければならないのだ。できるかぎり情報を集めながら、バイアスのない決断をするための五つのヒントを紹介しよう。
(1)心のエネルギーを集中させる
心のエネルギーは、徹底的に考えたり、衝動をコントロールしようとするたびにすり減っていく。だから、ここぞという大事な場面のためにセーブすることを心がけるべきだ。重要な決断が控えている時は、それとは無関係な事柄に関する判断を極力減らそう。物事の優先順位を決めたり、忙しいときでもルーチンをキープしようとしたりすることで、エネルギーの無駄づかいを防ぐことができる。有効活用すべきなのは時間だけではない。心のエネルギーにも注意を払おう。
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