「名前はまだない」パレスチナの蜂起 - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2015年10月27日 15時20分
この緊張状態を解消するために、11月にはケリー米国務長官がアッバースやネタニヤフ、ヨルダンのアブダッラー国王と会談した。翌日にはイスラーム教徒のアクサーモスクでの礼拝が認められ、事態は沈静化するかと思われた。だが、今年8月初め、イスラエル政府は再びパレスチナ人のアルアクサーモスクへのアクセスを制限する。そして9月、冒頭に指摘したように再びモスクが封鎖され、衝突が激化したのである。
この衝突の激化をなんと呼ぶか。前述したように、「第三次インティファーダ」と呼ぶメディアがある一方で、アルアクサーモスクがきっかけで起きたことから「アルアクサーインティファーダ」と呼ぶものもいる。2000年に発生したインティファーダが、当時野党党首だったアリエル・シャロンの神殿の丘訪問に挑発されて沸き起こった、という史実とダブらせて、アルアクサーモスクに対するイスラエルの挑発がいつも紛争の種にある、との意味を込めている。パレスチナのハマースはといえば、「アラブの春」の際に盛んに名づけられた「怒りの日々」という呼称を使う。「アラブの春」が、独裁に対する市民、大衆の怒りを土台に展開したという、市民社会的なイメージを強調してのことだ。一方で、パレスチナ人がイスラエル市民をナイフで切りつける、という事件を取り上げて、「ナイフ・インティファーダ」という名前も出回っている。
この「蜂起」、名前がまだないだけではなく、これまでのインティファーダとさまざまな点で差異が見られる。まず、パレスチナ側もイスラエル側も、組織的なものというより住民レベルの個別的衝突が同時多発的に起きている、ということ。イスラエル側は入植者の独断的行動が目立つし(イスラエルの元議員で和平派のウリ・アブネリは、「イスラエルで今一番力を持ち国家を乗っ取ろうとしているのは、イスラエルの入植者たちだ」と苦言を呈している)、パレスチナ側は、ハマースもPLOも指導者として頼るに足らず、と公言してやぶさかでない若者が中心だ。
二つ目の特徴は、蜂起の主体となるパレスチナ人の多くが若者で、オスロ合意を知らない世代だということだ。1993年に結ばれたオスロ合意に、期待することもがっかりすることもない、ただ最初から失敗のなかで生活してきた。彼らにとっては、イスラエルとの和平は何の良いイメージもない。
また、西岸やガザなどのパレスチナ自治地域のパレスチナ人だけではなく、イスラエル国内のイスラエル国籍を持つパレスチナ人の間で蜂起が広がっていることも、特徴のひとつだ。こうした若者たちが、ツイッターや動画サイトを駆使して、既存組織に拠らない行動の広がりを実現している。イスラエルのリクード党員がこの状況を表現してこう言った。「ビン・ラーディンとザッカーバーグが一緒になったようなもの」。
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