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中東、もう1つの難民問題

ニューズウィーク日本版 / 2015年11月2日 15時40分

 重要な問題は「移民か、難民か」だ。滞在資格を持たない移民なら国外退去処分にできる。だが難民は国外に退去させてはならないというのが、難民条約の核となる規定だ。

 イスラエルは国外退去処分には踏み切っておらず、「一時的集団保護」ビザを発行して事実上、合法的に滞在できるようにしている。ただしこのビザでは労働許可証は取得できず、医療・福祉制度も利用できない。

 筆者が13年にイスラエルで会ったエリトリア人夫婦は、生後8カ月の双子の息子と、1部屋しかないゴキブリだらけのアパートで暮らしていた。子供たちは病気で嘔吐していたが、医療保険がないために治療を断られたという。話を聞いた翌日、双子の1人は死亡した。

「国外退去処分にしないのは、出身国が危険な状態だと認識しているからだ。ならば、その人は『難民』にほかならない」。イスラエルの支援団体、難民・移民ホットラインの広報担当者アナト・オバディアロスナーはそう言う。「政府の狙いは彼らを悲惨な状態に追い込み、出ていくよう仕向けることだ」

 イスラエル政府は13年に「自主的国外退去」を国の方針に掲げた。3500ドル相当の現金と、故国またはルワンダなどの第3国行きの片道航空券と引き換えに出国することを、アフリカ人難民申請者に促している。

 退去を拒めば、ネゲブ砂漠にあるサハロニム刑務所かホロト収容所に送られる。この政策の合法性には異論があるが、今のところアフリカ人難民申請者は裁判なしでサハロニム刑務所に無期限拘束したり、ホロト収容所に1年間収容したりすることが認められている。

 これまでに自主的国外退去に応じたのは1万人以上。しかし難民・移民ホットラインの報告書によれば、彼らは第三国での保護を約束されて出国したものの、多くが目的地で現金や渡航文書を没収された。中には拘束された人もいるという。

東欧が見習う国境管理

「シリア難民やアフリカ難民の人道的悲劇に無関心ではない」。ネタニヤフは先月、そう発言した。「だがイスラエルは国土が非常に狭く、人口や地理の面で多様性に欠ける。不法移民とテロの双方を防ぐために国境を管理しなければならない」

 イスラエルは11~13年、対エジプト国境沿いにフェンスを建設した。おかげで、越境者数は11年に1万7000人だったが、13年には43人に激減。難民の大量流入に直面するブルガリアやハンガリーは、イスラエル製フェンスを国境に導入する可能性を示唆している。

 昨今の難民危機で、イスラエルではある論争が再燃している。ホロコースト体験者の子孫として、イスラエル国民は非ユダヤ人難民にどう対処すべきか──。

 イスラエルはシリアと敵対関係にあるが、政治家の間では、シリア難民を受け入れるべきだとの声も上がる。その一方で政府は、シリア難民約63万人が暮らすヨルダンとの国境に、総延長約30キロのフェンスを建設する工事に着手した。

「私の祖父母は父方も母方もハンガリー出身で、アウシュビッツ強制収容所に送られた」と、オバディアロスナーは言う。「だからこそ、今のイスラエルに怒りと恥ずかしさを感じる。難民が造った国イスラエルは、難民保護国として世界に見本を示すべきだ」

[2015.10.27号掲載]
ヤルデナ・シュワルツ


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