シナイ半島のロシア機墜落をめぐる各国の思惑とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年11月6日 17時15分
先月31日に発生したロシア機の事故に関しては、事故説とテロ説が錯綜する中で、そこに各国の思惑が入り乱れた格好となっています。事故を起こしたのは、エジプトのシナイ半島にあるリゾート地シャルムエルシェイクから、ロシアのサンクトペテルブルクに向かっていたコガリムアビア航空(ブランドネームはメトロジェット)9268便のエアバスA321機でした。
シナイ半島の南端にあるリゾート地のシャルムエルシェイクから、イスラエル領空を避けるように三角形の半島を北北西方向に上がって、地中海から黒海を目指すフライトプランが出ていたようですが、巡航高度に達して半島を2分の1ほど縦断した時点で急降下し墜落。乗客乗員は224名は全員死亡しています。そのほとんどがロシア人でした。
この事故ですが、事故の直後からISILの一部から「2回の犯行声明」が出されており、アメリカのテレビではテロの疑いが濃厚という報道がされています。アメリカだけでなく、イギリスも諜報機関などの分析としてISILのテロ説を唱えており、アメリカに同調しています。
一方で、当事者のロシア、そして事故現場となったエジプトは基本的に「テロ説」には慎重です。
まず、事故機は就役して18年と機齢がかなり進んでいる上に、俗に言う「尻もち事故」の経歴もある機体でした。ですから、何らかのトラブルが発生して墜落したという可能性は排除できないということがあります。また、ロシア側としては、子ども25人を含む家族連れの多くが犠牲となった今回の事故は大変に悲劇的であり、遺族感情としてテロを疑うことへの抵抗感もあるようです。
エジプトに関しては、仮にテロだとすると、2014年6月に発足したシシ政権の治安維持能力に疑問が持たれる可能性があります。また、何よりもドル箱であるリゾート地のシャルムエルシェイクに関して、2005年の爆弾テロで傷ついたイメージが回復していた中で、ここであらためて治安の悪さを指摘されるのはエジプト経済として避けたいところでしょう。
さらに言えば、シシ政権というのは、ムスリム同胞団系のムルシー政権をクーデターで打倒し、経済活動の活性化、イスラエルとの関係修復などを進めていますが、では「西側」かというと、必ずしもそうではないわけです。中ロとの関係を強化して、上海協力機構にも加盟するなど、綱渡り的なバランス感覚を持った政権であり、政治的な思惑としてはロシアに協調しているという見方もしておく必要があります。
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