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「中国は弱かった!」香港サッカーブームの政治的背景

ニューズウィーク日本版 / 2015年11月19日 17時42分

 とはいえ、これで中国サッカーが強化されるかどうかは未知数だ。そもそも中国スポーツの低迷には根本的な原因がある。旧ソ連同様、中国のスポーツはステートアマ育成に重点を置いていた。ステートアマとは国によって身分や生活を保障され、スポーツに専念できる環境を与えられた選手のことだ。個人がアマチュア選手としてスポーツに打ち込むわけでも、プロ選手としての成功を目指すわけでもない。政府の指示によってスポーツに取り組む選手を意味する。こうしたステートアマを育成するため、中国各地にスポーツ専門校が設立され、才能ある若者を子ども時代から練習漬けにしてトップ選手が育成された。

 国の栄誉のためにプレーするのはもちろんのこと、こうした強化には自治体のメンツ、地方官僚の政治的業績という側面もあった。全国運動会(日本の国体に相当)で自治体同士のメダル争いで勝利すれば、それは官僚の業績となる。メダル争いをするためには何十人もの選手で一つのメダルしか取れない球技よりも、個人種目のほうが効率的。そのため団体種目の強化は個人種目と比べておろそかになりがちだ。

 また中国社会が豊かになるにつれ、子どもをスポーツ選手にさせたがらない親も増えてきた。トップ選手になったとしても引退すれば使い捨てされるだけ、ちゃんと教育を受けさせたほうがいいと考える人が少なくない。現在ではトップ選手を大学や大学院に所属させ、ちゃんと学歴をつけさせようという方針が採られているが、人々の観念を変えるまでにはいたっていないようだ。ステートアマ制度の弱体化と経済成長の二つの要因によって中国若年層のサッカー人口は激減し、代表の実力低下を招いたとされている。

 こうした状況を変えようと、中国も改革を続けている。2万校のサッカー特色学校は日本の部活動を参照したもの。学校スポーツという受け皿によって、スポーツ人口のすそ野を広げる狙いだ。ただし激烈な受験競争が繰り広げられる中国では、スポーツをしている暇があったら勉強して欲しいというのが親の願い。政府の旗振りどおりにサッカーを楽しむ子どもが増えるかどうかは未知数だ。

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[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)


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