犬たちの怒涛の反乱にぶちのめされる『ホワイト・ゴッド』
ニューズウィーク日本版 / 2015年11月20日 17時20分
ヨーロッパは間違いなく、以前より寛容でなくなっている。ハンガリーの右派政権は単なる右派というより極右に近い。難民が入国できないように国境を閉鎖していることなどは、本当に恥ずかしく思う。
今の状況を見ていると、共産党時代を思い出す。かつてはオーストリアとハンガリーの間にあった「鉄のカーテン」が、今は難民がやって来る南方にあるように感じる。すごく悲しいことだ。柵や壁を築くことが何の答えにもならないことを、みんな分かっているのに。
――『ホワイト・ゴッド』は、SF映画『猿の惑星』やヒッチコック監督の『鳥』を想起させるという論評もあったが、あなたが着想を得た動物映画はあるか。
『鳥』をイメージしたということはない。どちらかというとスティーブン・スピルバーグの『E.T.』や『未知との遭遇』、『ジュラシック・パーク』などのほうが影響はあったかも。というのも、この映画は僕にとってスリラーではなく、寓話なんです。
例えば『鳥』は未知の敵、未知なるものに対しての恐怖の感情が作品の推進力となっていく。それに対して、『ホワイト・ゴッド』ではモラルを持っているのは動物のほう。そういう意味で、人間性の真実みたいなものを描いているのが『ホワイト・ゴッド』だと思う。
200頭以上の犬たちがトレーニングを受けて撮影に参加した 2014©Proton Cinema, Pola Pandora, Chimney
――リリは周囲との関係はすごく不安定だが、犬からすれば従うべき存在になっている。彼女が象徴しているものは?
われわれの純粋さ。特に、規則などの下で簡単に失われてしまう純真さを象徴している。
そのリリ役だが、探すのにはすごく苦労したんだ。大がかりなキャスティングをして、2000人くらいの女の子に会って。ジョーフィア・プショッタは友達の付き添いでオーディションに来ていた。友達の後ろに何の興味もなさそうにいた彼女を見て、「ちょっと試してみない」と誘ったが、「ノー、映画なんて出たくない」と言われた。
それでも写真や動画を撮らせてもらい、素晴らしかったのでぜひリリをやってほしいと思った。だから、たくさんの花とケーキを持って、彼女のお母さんを口説きに行った(笑)。娘さんには才能があるから、絶対にこの役を演じるべきだ、と。
――彼女は女優の道に目覚めた?
まだ14歳と若く、将来を決めるには早いから、どうなるか分からないだろう。本当にいい女優だけど、こちらの考えを押しつけたくはないし。それにハンガリーの映画業界はそれほど大きくはなくて、アメリカのように子役で出演したら次の作品にすぐ声がかかるという状況でもない。
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