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犬たちの怒涛の反乱にぶちのめされる『ホワイト・ゴッド』

ニューズウィーク日本版 / 2015年11月20日 17時20分

――これまでのあなた自身の人生で、犬との関わりはあったのか。

 犬は大好きだし、子供の頃から犬を飼っていた。犬との思い出はたくさんあるよ。今は都市部に住んでいるので、一緒に暮らすことが難しいが。

 犬を演出するにあたり、2つ決めていたことがある。1つはCGを一切使わず、本物の犬を使うこと。もう1つは、犬に犬自身を演じてもらうこと。だから、良い協力者で仲間になってくれる犬を探さなければならなかったが、それがとても大変だった。

 基本的には、野犬収容所にいるような犬を集めた。自分も毎日トレーニングの場に足を運んで彼らと時間を過ごしたりして、作品を作っていった。だからこの映画はフィクションではあるが、ドキュメンタリーに近い作り方をしたと言うこともできる。


――収容施設から連れてきた犬は扱いにくいと思う。なぜ、いわゆるタレント犬を使わなかったのか。

 自分にとっては逆に、収容施設にいる犬を使うことがとても重要だった。彼らの顔を見れば、そこにわれわれの伝えたいストーリーが描かれている。目を見れば、この作品の意味が読み取れるからだ。

 最初にこのアイデアを周囲に伝えたら、みんなに「無理、無理」って言われた。不可能だと言われまくった。でも1人だけ、ハンガリーでドッグスクールをやっている人が、200頭同時に社交性を持たせることは可能だと言ってくれた。

 200頭以上の犬たちがトレーニングを受け、自分たちが経験した残酷な過去を忘れ、それを乗り越えて、われわれと自然に接することができるようになった。まさに奇跡を見ているような感じで、すごくドラマチックだった。撮影後は飼い主探しをやって、今はすべての犬に飼い主が見つかっているよ。

――小さい頃から犬とともに育ってきたというが、今回改めて発見したことはある?

 たくさんあった。今ほど犬に親近感を覚えていることはなかったかもしれない。今回は250頭の犬たちの、いわば共同体といえる大きな集団とともに過ごし、人間と犬、犬と犬、それぞれがどんな関係を築けるのかを改めて知ることができた。犬同士が互いに優位に立とうとしたり、闘ったりということもなく、こちらも非常に明るい前向きな気持ちになれた。

 彼らは悲しい犬からハッピーな犬になれたし、現場でもみんなで仕事をするのがすごく楽しそうで。僕にとっても一種のセラピーだった。



大橋 希(本誌記者)


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