だから、もう「お金」は必要ない
ニューズウィーク日本版 / 2015年11月26日 16時8分
長期金利は、最終的にはその経済圏の成長率と同じ水準に収束してくることが知られている。全世界的に金利が低い状態が続いているということは、市場は、世界経済についてあまり成長しないと予想していることになる。だが、金利というのは、それだけの要因で決まるものではない。金利はお金を貸し借りする時の利子であり、お金が余っている時には低くなり、お金が足りない時には高くなるという性質もある。
この原稿を書いている時点において、アメリカを除く各国は量的緩和策を継続しており、世の中は大量のマネーで溢れかえっている。これが低金利に拍車をかけている可能性は高い。しかし、各国の金利があまり上がらないのはそれだけが原因ではないかもしれない。
市場は、近い将来、それほど多くの資本を必要としなくなる社会が到来することを察知しており、すでにそれを織り込み始めているかもしれないのだ。投資額の減少によって資本が余ることが予想され、それが低金利を引き起こしている可能性がある。
世界的な貿易の動向にも少し異変が生じている。
基本的に全世界のGDP(国内総生産)と貿易量(各国の輸出と輸入の総額)は比例しているのだが、このところGDPの成長率に対して、貿易量が相対的に減少している。過去にも同じような局面が何度かあったので、大した意味はない可能性もある。
だが、先ほどの投資減少と低金利に関する話題と同様、同じ経済規模を維持するのに従来のような物的資源を必要としなくなっており、これが貿易量の相対的な低下につながっている可能性は否定できない。
経済活動を維持するのに必要となる資本の額が減少すれば、短期的には経済にとってマイナスである。設備投資の金額が減少し、その結果、国民所得も減少する。所得が減少すれば、GDPの成長率も伸び悩むことになる。
だが長期的にはまた別の変化が生じる可能性もある。
同じことをより少ない設備で実施できるのであれば、従来の設備の維持に従事していた人材が余剰となる。余った人材は別な産業にシフトすることになり、従来にはなかった製品やサービスがたくさん登場する可能性が見えてくる。画期的な製品やサービスの登場によって、最終的には消費が喚起され、経済規模は再び拡大に向かうかもしれない。
もしこの効果が本物なのであれば、無数の個人がプチ事業家として振る舞うことのインパクトは、想像以上に大きなものとなるだろう。
経済学者やエコノミストの中には、全世界的な低金利傾向や成長率の鈍化への対策として、規模の大きい公共事業を復活させるべきと主張する人もいる。
だが、低金利が構造的な問題に起因するものなのだとすると、従来型の需要に働きかける政策はあまり効果を発揮せず、むしろ新サービスの登場を促す政策を実施したほうが効果的かもしれない。この仮説が正しいかどうかはっきりするのは、そう遠い将来のことではないはずだ。
※第3回:学歴や序列さえも無意味な「新しい平等な社会」へ はこちら
<加谷珪一『図解 お金持ちの教科書』抜粋シリーズ>
ニューストピックス「図解 お金持ちの教科書」
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