アルゼンチンから吹いてきた中南米左派政権の終焉の風
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月10日 17時0分
アルゼンチン人について、ライバル関係にあるブラジル人が昔から好むジョークがある。楽に金儲けをしたければ、アルゼンチン人を相応と思われる値段で買い、そのアルゼンチン人が自分で相応と思っている値段で売ればいい──。
悪趣味なジョークかもしれないが、アルゼンチン人もこれが見当違いでないことは認める。現在のアルゼンチンの窮状を招いた原因を言い当ててもいる。
1世紀前には世界の経済大国上位10位内に入っていたアルゼンチン。だが今日では、新しい建物こそ目立つものの経済は停滞し、世界における自らの役割を過大評価しているきらいがある。
先月の大統領選決選投票で、中道右派のブエノスアイレス市長マウリシオ・マクリが当選したのは良い前兆だ。マクリの勝利は、故キルチネル前大統領とその妻で現職のフェルナンデス大統領による12年間に及ぶ中道左派政権に終止符を打った。
両大統領の政治を言い表すとすれば、アルゼンチンが世界の中心であるという虚栄心で塗り固められた、現実味のかけらもないポピュリズム(大衆迎合主義)と、1次産品主導型の経済、そして社会保障のばらまきが生んだ短期的な成長と長期的な経済破綻だ。
今月10日に大統領に就任するマクリが引き継ぐのは、準備金が危険なほど少なく、25%という恐ろしいインフレ率と、GDPの6%以上を占める財政赤字に圧迫されている国だ。
それから、ポピュリズム政治の「キルチネル主義」によって長年グローバル経済から取り残されていたアルゼンチン経済界。悪いのは他国の債権者だという被害者意識を打ち出したフェルナンデスの主張に閉塞感を募らせ、国の未来について現実的な選択を下すリーダーを待望する国民の期待も背負うことになる。
マクリの勝利は中南米に重大な問いを投げ掛けた。国民は、ポピュリズムや社会的正義を是とする政党に背を向けて、より現実的な主張を支持しているのだろうか。
左派ポピュリズム政権の象徴といえるベネズエラの場合、世界最悪であるインフレ率150%超に直面し、多発する犯罪や暴力に苦しむ。今年の成長率予測はマイナス10%、来年はマイナス6%と、危険な悪循環に陥っている。
破滅の種を内包している
チャベス前大統領はかつて、自身が追求する「社会的正義」モデルの素晴らしさを得意げに語った。しかしその後継者であるマドゥロ政権下では歴史の流れに逆らうかのように、政敵への人権侵害が増加してきている。今月6日の議会選挙はマドゥロにとって正念場となった。
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