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モスク幻像、あるいは世界史的想像力

ニューズウィーク日本版 / 2015年12月11日 15時48分

 イスラムとの「文明の衝突」のただ中にあるとされる西洋文明の根幹をなすキリスト教の側も、しかし、決して単線的に「進歩」しているわけではない。周知のとおり、IS殲滅の急先鋒に立つアメリカでは現在でもキリスト教原理主義が強い影響力を持ち、つい最近11月27日にもキリスト教テロ組織を称賛する原理主義的保守派の男性によってコロラド州の人工妊娠中絶を行うクリニックが銃撃され、12人の市民と警官が死傷している。合衆国憲法修正第14条が女性の堕胎の権利を保障していると初めて判示し、妊娠中絶を規制するアメリカ国内法の大部分を違憲無効としたロー対ウェイド事件の判決が下されたのは1973年であり、今回の銃撃事件は、それから42年もの年月が経ったあとの出来事なのである。――冒頭でも触れたパリでのテロ事件と、この事件の間に何か本質的な違いがあるだろうか。

 さきに述べたKusrianとの会話を楽しんだジャカルタへの帰路、山沿いの裏道からハイウェイ1号線へと合流する直前、突如として姿をあらわす見たこともないくらい巨大な、骨組みだけのモスクが野っぱらに屹立していて、わたしはしばらくの間、取り憑かれたようにそれから目を離すことが出来なかった。あれが未だ建設途上のものだったのか、あるいは立ち枯れたままに放置された廃墟だったのか、今となっては知るよしもないが、わたしの心の中ではイスラムだけでなくキリスト教も含む世界史への想像力の奔流が、このモスクの姿と重なり合いながら曖昧に像を結んでいる。

[執筆者]
谷口功一(首都大学東京法学系准教授)
1973年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員を経て現職。専門は法哲学。著書に『ショッピングモールの法哲学』(白水社)、『公共性の法哲学』(共著、ナカニシヤ出版)など。
ブログより:移民/難民について考えるための読書案内――「郊外の多文化主義」補遺


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