次の台湾総統を待つFTAとTPPの「中国ファクター」
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月24日 18時54分
台湾の貿易依存度(GDPに対する貿易額の比率)は2013年に120%となっており、他国よりも貿易の重要性が高い。さらに中間財が台湾の輸出の74%を占めていることは、台湾がアジアのサプライチェーンに深く組み込まれていることを示している。政策研究大学院大学政策研究院の川崎研一シニアフェローの推計によると、関税撤廃と非関税障壁の削減において、TPPに不参加の場合、台湾の所得損失がGDP比1.0%となり、RCEPに不参加の場合は同3.6%に達するという。
冒頭で紹介したように、自由貿易そのものに懐疑的な声が国内にある以外に、台湾は国内外でFTA参加に関して多くの課題を抱えている。
なかでも一番の難点が中国ファクターだ。
台湾はこれまでに、国交をもつグアテマラなど中南米の国々を中心に8カ国とFTAを締結している。馬英九政権は中国と両岸経済協力枠組協議(ECFA)を結んだ後、2013年に国交をもたないニュージーランドとシンガポールの2カ国とのFTA締結に成功した。これは、両岸関係が安定していたことに加えて、両国が中国とFTAをすでに結んでいたことが功を奏したとされる。
それを裏付けるかのように、2008年には、シンガポールのリー・クアンユー内閣顧問(当時)が「シンガポールは、台湾が中国との関係を改善した場合においてのみ、台湾とFTAを締結することができる」と発言したと報道された。ニュージーランドとの締結では、中国を刺激するのを避けるため、官庁の外で署名儀式が執り行われた。
馬英九政権は大陸とECFAフレーム下の各協定を進め、その後でTPPやRCEPに参加するという構想を持っていた。だが、中国との経済協力が「深水区」(難度が増した領域)に達すると、中国への経済依存が政治的な統一につながるという懸念が強まり、反対派の学生運動のきっかけになった。
その後、台湾のFTA戦略はモメンタムを失いつつある。その進捗具合のよいバロメータとなるのが、台湾が関係強化をすすめる東南アジア諸国だ。台湾はインドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアとFTAの実行可能性の調査を行なっているが、締結に向けた目処は立っていない。
これらの国は、「一つの中国」を背景に、中国が自国―台湾間のFTAに反発することを恐れており、慎重な姿勢をくずしていない。例えば、2014年8月、中国の黄恵康駐マレーシア大使が、FTA締結を含む台湾とマレーシアが行なう一切の公式活動に反対すると述べている。一方、台湾側はこれらの国に対して、FTAは純粋に経済的なものであるため心配はいらない、と説得を試みている。
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