次の台湾総統を待つFTAとTPPの「中国ファクター」
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月24日 18時54分
「悲しい話だ」台湾のある行政院大陸委員会幹部は、一連の動きを評してこう言った。「サービス貿易協定について、市民社会ともっとコミュニケーションをとるべきだった。この協定を結んでいれば、おそらく他の国々とFTAを結ぶよりよい機会があっただろう」
今後の動向はどうだろうか。1月に投票が行なわれる総統選挙では、大陸との接近を警戒する野党・民進党の蔡英文候補が当選を有力視されている。今年6月、彼女は訪米期間中に「(台湾は)TPPに参加する切迫した必要性がある」と述べ、TPPの次のラウンドでの参加を目指す方針を明らかにした。
ただ、台湾のTPP参加は前途多難だ。台湾はアメリカからの牛肉・豚肉の輸入を制限していて、双方はこの問題で合意を得ていない。台湾の外交関係者によると、アメリカはこの問題さえクリアすれば、台湾のTPP参加を歓迎する方針だという。
台湾のTPP加入の成否は中国のTPPへの態度に大きく左右される。中国が今後数年かけて国営企業改革などを断行しTPPへ加入できるのであれば、中国は台湾の加入を黙認するかもしれない。ただし、中国が消極的な態度をとると、台湾の加入はより一層難しくなる。似たようなことが、台湾がWTO(世界貿易機関)に加入した際に起こった。台湾は加入の準備ができていたにもかかわらず、中国の加入(2001年)を待たなければならなかった。
何より、台湾政府はFTA交渉の透明性を確保し、自由貿易の重要さを民衆に対して説得しなければならない。同時に、所得再分配のための税制改革、FDI(外国直接投資)規制の緩和、関税引き下げなどの国内経済改革を進めることで自由貿易圏に入るための条件整備を進める必要がある。
先日、いまやレームダックと化した馬英九総統はシンガポールで習近平国家主席と歴史的な会談を行ない、久しぶりにスポットライトを浴びたせいか何度も笑顔を振りまいていた。だが、台湾の次の総統には、FTA締結をどう促進し、それによって台湾の競争力をどう維持・向上させていくかという難題がすでに待ち構えている。
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[筆者]
舛友雄大
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院アジア・グローバリゼーション研究所研究員。カリフォルニア大学サンディエゴ校で国際関係学修士号取得後、調査報道を得意とする中国の財新メディアで北東アジアを中心とする国際ニュースを担当し、中国語で記事を執筆。今の研究対象は中国と東南アジアとの関係、アジア太平洋地域のマクロ金融など。これまでに、『東洋経済』、『ザ・ストレイツタイムズ』、『ニッケイ・アジア・レビュー』など多数のメディアに記事を寄稿してきた。
舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)
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