イラク・バスラの復興を阻むもの - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月26日 19時16分
歴代の政権の政策に振り回されて、潰された財閥は数知れない。そのなかで一世紀以上前に設立されたブンニーヤ財閥は、60年代の国有化政策、その後のバアス党政権下の社会主義、統制経済を生き延びてきた。政治が変わっても、うまく立ち回ってきた数少ない老舗財閥だ。
今、バスラには、武人政治がまかり通っている。イスラーム主義を掲げた「革命主義」的政党と地元の部族勢力が入り乱れながら、覇を競い合っている。だが都市バスラには商人の文化、商人政治がある。武人政治と、財閥の商人政治は、相いれない。お互いどう折り合っていけばいいのか、模索しているのか、手が出せないでいるのか。いずれにしても、武人政治一辺倒で物事を進められるマイサンなどとは、そこが違うのかもしれない。
もうひとつ、武人政治が手をこまねいているだろう要因を、同じくブンニーヤ財閥に見た。雇われ社長が嬉しそうに、「うちの大事な右腕」と紹介したのが、イラク南部鉄道会社に勤めていたという技術者である。バスラ、ひいては南部の発展には鉄道整備、拡張がかかせない、と彼は力説する。バスラに地下鉄を作りたいんだ、とも。
彼は、インフラ整備がすべて公共部門に任され、国作りの根幹を担っていた時代を生きてきた、昔ながらのテクノクラートだろう。90年代の経済制裁とイラク戦争で崩壊したとされる、イラクの屋台骨を支えていた中間層に位置付けられる人物だ。
こういう層もまた、武人政治のなかで居場所を失っている。財閥がそれを拾っても、全面的に活躍する場を与えられるわけではない。会って話していて、筆者などはものすごくもったいない感がするのだが、おそらく70-80年代のイラクの経済開発に関わった経験をもつ日本企業も、同じ気持ちだろう。彼らが相手にしていたイラクのカウンターパートというのは、こういう人たちだったからだ。それが今、大半が「旧体制の名残」として重用されずにいる。
発展していないバスラの姿を見るのは物悲しい思いだったが、だが発展しない原因のひとつが、武人政治が都市を席巻できないからだと考えると、席巻できない元中間層と商人政治がまだまだ健在なのは頼もしいぞと、なんとなく腑に落ちた。
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