京都市の大胆な実験
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月29日 7時45分
とはいえ、良いことずくめの政策は存在しない、というのは政治学のイロハかも知れない。ある政策が選択されるということは、その政策を望ましいと考えた人々の意見が通り、望ましくないと考えた人々や他の政策が望ましいと考えた人々の意見が通らなかったことを意味するからである。自分の意見が容れられなかった人々にとって、採用された政策は望ましくないものである可能性は高い。ここに述べてきた京都市の政策転換の場合にも、それは例外ではない。時代の潮流や経済的メリットから考えて妥当に思われる政策も、負の影響を受けている人々は確実に存在する。
その代表が、京都市域以外から京都市に通勤や通学をしている人々であろう。京都は歴史都市、観光都市であると同時に、それなりの経済圏や生活圏を持つ大都市である。「東京のような発展」を遂げた京都に毎日通っている、という人は多い。かく言う筆者もその一人である。このような立場からは、四条通の車線減は渋滞の原因であり、通勤・通学の足となるバスの遅れを意味する。祇園祭の山鉾巡行日が増えれば、同じように交通に大きな影響が出る。今回の政策転換が、京都市域外に住みながらも京都市の社会経済を支える人々の犠牲の上に行われたことは否定できない。
京都市は全国の政令指定都市で唯一、市人口の所在都道府県内人口に占める割合が五〇%を超えている。つまり、京都府の人口の過半数は京都市民なのである。このことは恐らく、京都市が政策を展開する際に、京都市域外の人々の存在を意識しにくくしているであろう。また、京都市域外から通勤・通学する人々は、東京や海外からの観光客とは違い、宿泊もしなければ目立った消費もしない。彼らに少々不便があっても生み出す経済効果に大きな違いはないことも、市域外の人々を軽視することにつながりやすい。
実のところ、この問題は先日まで注目を集めていた「大阪都構想」が本来扱おうとしていた課題の裏返しである。大阪の場合、大阪市の人口は府の人口の三〇%程度で、大阪市に市域外から通勤や通学する人が多数を占めていた。経済圏や生活圏は同じなのに、政治行政区画が異なるために疎遠になり、大阪市域外の人々が大阪市を見捨ててしまいかねない状況を打開したいというのが、都構想の基底にあった考えの一つであった。京都の場合には逆に、京都市が市域外の人々のことを十分に斟酌していないわけだが、根底にあるのは大都市における「圏域問題」、すなわち経済圏や生活圏と政治行政圏が重なっていないという制度的問題であることは共通する。
この記事に関連するニュース
-
関西エリア『シェア乗りタクシー』のサービスエリアが更に拡大
PR TIMES / 2024年11月18日 12時45分
-
「乗り通す人いるの?」200キロ超の長距離“普通列車”が今なお消えない理由 昔は“とんでもなく長い”列車も
乗りものニュース / 2024年11月10日 15時12分
-
開業80周年の「川崎市電」。廃線跡から、その不遇の歴史をたどる
オールアバウト / 2024年11月9日 21時15分
-
近鉄16000系、南大阪線・吉野線「最古参特急」の今 「吉野特急」の元祖として観光と通勤両面で活躍
東洋経済オンライン / 2024年11月9日 6時30分
-
住み続けたい「京都府の街(自治体)」ランキング! 2位「京都市中京区」を抑えた1位は?
オールアバウト / 2024年11月2日 11時50分
ランキング
-
1対人地雷の「再び高まる脅威」懸念 国連事務総長 米の供与発表後
AFPBB News / 2024年11月25日 19時25分
-
2一晩で20万人超が一斉サイクリング、「道一帯が自転車でふさがる」…中国政府は抗議行動再燃を警戒し外出規制も
読売新聞 / 2024年11月25日 19時53分
-
3イスラエルとレバノンが停戦で大筋合意か、ヒズボラは不明 バイデン米政権が仲介
産経ニュース / 2024年11月25日 23時53分
-
4英仏、ウクライナ派兵議論か=トランプ氏就任に備え―ルモンド紙報道
時事通信 / 2024年11月25日 21時46分
-
5ロシア、ウクライナ停戦で次期米政権に期待か ウォルツ氏発言受け
ロイター / 2024年11月25日 20時26分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください