サウディ・イラン対立の深刻度 - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2016年1月6日 21時38分
こうして、サウディにとっては「このままではイランがどんどん、域内ばかりか国際的に復帰してしまう。なんとかこれを阻止しなければ」、という状況が生まれていたのだ。
一方で、サウディアラビアは9.11同時多発テロ事件以来、欧米諸国から「?」をもってみられるようになった。「9.11テロの実行犯の多くがサウディ人じゃないか」とか、「ISの過激思想の根源にはワッハーブ派がある」とか、「サウディからISに合流する人口は、アラブ諸国のなかでチュニジアに次いで二番目に多い」、などなど。批判の矢が向くたびに、サウディは欧米諸国を喜ばすことをしなければならない。議会の設置だの、選挙制度導入だの、女性参政権だのが、それである。平行して、対テロ対策もしっかりせよ、といわれる。「もっと真剣に過激派対策をせよ」という圧力が強まる都度、なにかしなければならない。
年頭に死刑が執行された47人の多くは、アルカーイダ系の過激派だった。だが、アルカーイダやISにつながる厳格なワッハーブ思想に共鳴するサウディ国民が、いないわけではない。となれば、スンナ派の「過激派」ばかりを取り締まってシーア派の「過激派」を処刑しないのはけしからん、との王政批判が出てくる危険性もある。そこで、シーア派のニムル・アルニムル師の死刑執行、という流れが生まれたのだ。
では、ニムル師の存在は、どれほどサウディにとって危険だったのか。
① サウディアラビア東部出身のニムル師は、90年代にイラン留学から帰国して以降、社会格差に不満を持つシーア派の若者に人気を博した。従来の在サウディ・シーア派社会が伝統的に政府との協調路線をとってきたのに対して、それに飽き足らない若者の不満を代弁したのだ。
② ニムル師が本格的にサウディ政府に危機感を抱かせたのが、「アラブの春」。隣国バハレーンで、人口の多数を占めながら政治中枢からはずされたシーア派住民を中心とした反政府デモが激化する一方で、サウディ東部でも反政府デモが起きた。民衆の反王政の波が高まることを恐れて、サウディ王政は「アラブの春」を抑えにかかる。自国はもちろん、隣国バハレーンにすらGCC軍を派兵した。
③ ところが、ウィキリークスによると、リヤドの米大使館は2008年の段階でニムル師を「反米でも親イランでもないし、そんなに過激でもない」と評価している。多くの湾岸研究者が、湾岸のシーア派社会はイランの子飼いでも手先でもない、と指摘している。
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