非常事態宣言まで出たフリント市の水道汚染は「構造的人災」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年1月28日 16時0分
では、その危険な上位10%ではどうかというと、バージニア工科大学が検査した家庭の水道水からは158ppb、市の調査員のデータでは、ある家庭で397ppbを検出しています。また、このバージニア工科大学の調査チームによれば、158というのは「上澄みの数値」であって、一定量を溜めておいて良く混ぜて検査したケースでは、200あるいは397、さらに最悪のサンプルからは1万3000ppbなどという極端な数字も得られているというのです。
健康被害も出始めています。4~13歳という子供たちの中には鉛中毒特有の皮膚炎が発見されており、中長期的には神経障害などの深刻な症状へ移行することが懸念されています。成人の中には頭髪が抜けるなどの症状も出ています。
先進国のアメリカで全く信じられない話ですが、現時点では以下のような経緯があると理解されています。
フリント市の上水道は、長年デトロイト市から供給を受けてきました。ですが、デトロイトを含む広域圏が五大湖の1つであるヒューロン湖から取水してより効率的な上水道供給をするための「新公社」を設立する際に、フリントは利用料が払えないということになったのです。
それはフリント市民や、市民の選んだ行政の判断ではありませんでした。破綻自治体のフリントの場合は、管財人の判断としてそうなったのです。デトロイトへの給水は新公社に移行したのですが、支払い能力のないフリントはその新公社からの給水を拒否され、他に選択肢のなくなったフリントは、2014年4月からは市内を流れる「フリント川」から上水道の取水を開始しました。
この「フリント川」の水質が問題でした。と言っても、川の水が鉛で汚染されていたのではありません。そうではなくて、質の悪い水を上水道として流したために、老朽化していた市内の「鉛水道管」が急速なペースで腐食され、その鉛が水道水に溶け出したのです。
汚染源は、長年のGM工場からの硫酸塩を含んだ排水が原因という説と、多雪地帯のために融雪剤として使われた塩が大量に流れこんだためという二説がありますが、いずれにしても、質の悪い水源へスイッチしたための現象ということはほぼ立証されています。
この問題は、直ちに激しい政争を巻き起こしています。
民主党系の世論はカンカンです。例えば、マイケル・ムーア監督は自ら抗議行動の先頭に立って「リック・スナイダー知事(共和党)の逮捕」を要求しています。辞任ではなく逮捕というのは、知事自身が「フリント市の財政を管財人の管理下に置くことで、新公社からの給水ができなくした張本人」という見方が成立するからです。
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