非常事態宣言まで出たフリント市の水道汚染は「構造的人災」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年1月28日 16時0分
ムーア監督は「これは公害事件ではなく、人種差別であり、人種へ向けたジェノサイドだ」と語気を荒げていますが、そうした抗議の声は、図らずも「自分は社会民主主義者」だとして「格差是正」の看板を掲げるバーニー・サンダース大統領候補への支持と重なりつつあるとも言えます。
一方の共和党は知事を擁護する立場です。「問題は深刻だが、発覚後の知事の行動は立派。責任があるのはミシガン州の硬直化した官僚主義」というのが共和党の立場です。
そんな中で、現在は2つの大きな訴訟が成立しつつあります。1つ目は住民がミシガン州を相手に訴える民事訴訟です。2つ目はミシガン州政に違法行為があった可能性に関する刑事訴追です。アメリカの司法システムでは、ミシガン州の州検事というのは刑事事件の起訴を行う一方で、州の法的代理人を兼ねます。ということは、州検事は民事訴訟では州政府を防衛しつつ、刑事訴訟では州政府の起訴を検討するという「利害相反」に立ち至ります。そこで2つ目の刑事訴追に関しては、常設の州検事ではない「特別検察官」を設置して対応することになりました。
では、現在の市民生活はどうなっているのかというと、全国の民間企業から何百万という単位で「ミネラル・ウォーターの無償提供」がされているので、当面の飲み水には困らない状況です。ですが、「フリント川の汚染水」で極端に腐食の進んだ「市内に張り巡らされた水道の鉛管」を交換するような財源はどこにもない中で、安心して飲める水道水が戻ってくるというメドは立っていません。
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