今も日本に同化できずにいる中国残留孤児たち
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月12日 17時41分
1993年12月、24歳のときに両親の永住帰国に伴い日本にやって来た河野は、大型第二種免許を取得してバス会社で働いたのちに独立。「まじめに事業をしたかった」という思いから中古バス5台を購入し、バス事業をはじめようとする。しかし結果的には、日本人に騙されてチャンスを失ってしまうことに。そしてその後も幾つかのプロセスを経て、そのバスに乗ることになったのだった。
事故を起こした際の運転は、忙しいので無理ですと断ったというが、世話になっていた人から「しっかり働かないと、借金を返せないよ」と説得されたため断りきれなかったのだという。だからといって彼を擁護することはできないけれども、中国残留孤児二世の現実がもたらす裏側の部分にも、私たちは目を向ける必要があるだろう。こちらが考えている以上に、残留孤児問題は根深く、そして複雑なのだ。
さらにいまは、「おじいちゃんは残留孤児なんだよ、としか聞いたことない。だから、『へえー、そうなんだー』って思っただけ」というような残留孤児三世も育っている。70年もの時間が経過すればそれはむしろ自然なことで、だから「中国残留孤児の家」で帰国者と日本人の橋渡しをしているという宮崎慶文氏は、自ら創作した三部作の舞踏劇を通じ、中国残留孤児たちの体験を語り継いでいきたいのだという。
「戦後百年のときにはもう残留孤児はいないよ。生きていないよ。七十年の今年が最後のチャンスですよ。だから、日本でも、中国でもやりたいんですね」
慶文はそう語った。いつもの少し怒ったような、少し悲しいような没法子(メイファーズ ※筆者注:中国語で「仕方がない」の意)の顔つきで――。(297ページより)
戦後百年のときにはもう残留孤児はいない。シンプルなその言葉は、「考えるべきことをきちんと考えろよ」と頬を叩かれたような衝撃を私に与えた。まだまだ考えが足りない部分を、鋭く指摘されたような気分だったのである。
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『中国残留孤児 70年の孤独』
平井美帆 著
集英社インターナショナル
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。書評家、ライター。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。
印南敦史(書評家、ライター)
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