飛べよピーポ、飛べ。そしてズボンをはきなさい
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月19日 6時5分
たとえば人々は、日本人は通勤のときに駅員の手で電車に「押し込まれる」ことを知っていて、どうして彼らはそんなことに耐えられるのかと尋ねてくる。ぼくは、なぜそうしたことが起こりえたかを説明する(きっと説明しすぎている)。日本では明治時代以降の実に急速な近代化によって、経済と政治とアカデミズムが都市部に集中したこと。日本では税制上の理由から、企業が社員の通勤交通費を支払うことが理にかなっており、そのため社員が長時間の通勤にも耐える動機を生んでいること。電車の運賃はロンドンよりかなり安いので(ただしロンドンの電車も、混雑ぶりは日本に追い着きつつある)、単純な運賃設定だったら人々は安くて混雑している電車に乗ることをそんなに気にしないこと。自分のまわりのスペースが減っても、人はそれなりに慣れていくということなど。
そんなわけで、ぼくはキャラクターのことをおかしいと思いながら、その理由を説明できずにいる自分の矛盾した立ち位置に、ずっと居心地の悪さを感じていた。
友だちが「ノーパン・ピーポ」と言ったとき、日本人もキャラクターのばかばかしさを理解していることに、ぼくは気づいたのだ。実際、キャラクターについては日本人のほうがぼくより厳しい目で見ている。ぼくは「ピーポくん」の外見がおかしくて、名前が変だと思っただけだった。でもぼくは、日本の人たちが「どうして彼はベルトを着けているのにズボンをはいていないの?」と疑問を投げかけたり、もっと気のきいた名前をつけようとしたりしていることも知っている。
やがてわかってきたのは、日本中が「ゆるキャラ」をめぐるドラマに夢中になっているということだった。なんといっても、この現象を表す「ゆるキャラ」という言葉まで生まれていた。これはぼくが日本を離れたあとに広まったのか。それとも、ぼくが気づいていなかっただけなのか。いずれにしても、ゆるキャラはもう避けて通れない。ゆるキャラの王様は、もちろん「くまモン」だ。「くまモン」はどこにでもいる。けれども挑戦者格の「ふなっしー」もいるし、ほかにもプロレスラーさながらに独自のアイデンティティーをつくり上げ、それぞれの「物語」を背負って、競争の舞台に上がろうとするキャラクターたちがいる。
ぼくは、ゆるキャラを別の視点から見るようになった。ゆるキャラの広まりには、特異な能力がそそがれている。キャラクターを生みだし、名前をつけるために(ときにはある種の個性も与えるために)、おびただしい想像力が投入されている(もしかすると、ここに使うにはもったいないほどかもしれない)。ぼくが新しいキャラクターをつくれと言われたら、どこから手をつければいいのかわからない。もうありとあらゆることが試されているからだ。それでも、新しいキャラクターはまだ生まれてくる。ぼくは「ふなっしー」が千葉県船橋市の公認マスコットでさえないことを知って驚いた。誰が「ふなっしー」をつくったのかも、わずか数年でこれだけの認知を得たのが誰の功績なのかもわからない。
博物館で爆笑した一件に戻ると、ぼくの非科学的な見方によれば、笑わないように我慢することが逆に笑いの原因になるというメカニズムがある。さらにぼくは「ノーパン・ピーポ」を面白いと思っただけでなく、「安心感」を得られたから笑ったのだと思う。どこにでもいるこっけいな「キャラクター」に対するぼくの見方を、日本人も「共有」していることがわかってほっとした。でも次にわかったのは、話が逆だということだ。ぼくのほうが日本人の見方を共有していただけのことだった。
※抜粋第2回:どうして日本人は「ねずみのミッキー」と呼ばないの?
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――英国人、日本で再び発見する』
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三賢社
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