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やる気の源を尋ねたら、その会社は数か月後に行き詰まった

ニューズウィーク日本版 / 2016年2月19日 15時42分

 スタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)は、スタンフォード大学の起業研究の拠点。その責任者を務めるのが起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグ教授だ。STVPで彼女は、正式な講座のほか、特別なプログラムや、世界各国の学生や大学との共同のワークショップも開いている。

 このたび刊行されたシーリグの新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)には、STVPの授業や実験、プログラムがたびたび登場する。その1つが「もっぱらお金の話しかしない」ベンチャー経営者のエピソードだ。

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 そのエピソードが示唆するのは、金銭的な報酬などの外的動機と、仕事への意欲などの内的動機の違い。以下、本書の「第3章 やる気を高める――顧客は自分自身」から抜粋する。

◇ ◇ ◇

 私はその実例を間近で見てきました。STVPのメイフィールド・フェローズ・プログラムでは、学生一二名が夏のあいだ、創業まもないスタートアップ企業で働く機会を設けています。これは起業リーダーシップに焦点をあてた九か月の研修・教育プログラムの一環です。学生はまず春学期に、スタートアップ企業の戦略と組織行動について学びます。そして、夏のあいだに各自が企業で働き、クラスメートや教官を招くオープンハウスを主宰します。そして、この研修の経験を踏まえて、秋学期に事例研究を発表するのです。

 数年前の夏のオープンハウスで、携帯電話用広告アプリの開発企業のプレゼンテーションを聞いていて、その会社の事業目的がはっきりしないと思ったことがありました。これといった課題に取り組んでいる様子はなく、その会社の理念がまったく見えなかったのです。創業者はもっぱらお金の話しかしません。純粋な興味から、あなたのやる気の源は何ですか、と丁重に尋ねてみました。創業者はあきらかに狼狽した様子で、明確な答えは返ってきませんでした。わずか数か月後にその会社が行き詰まったと聞いても、驚きはしませんでした。事業をしていれば必ず壁にぶつかる時があるものですが、それを乗り越えて会社を支えるために必要な気概が、この創業者はなかったのです。

 この件があって、その後のメイフィールド・フェローズのオープンハウスでは、どの企業についても起業の動機を尋ねることにしましたが、その答えの落差に驚きました。この質問をあらかじめ予想していたリーダーと、そうでないリーダーの差は歴然でした。学生の一人は、この経験を振り返って、こう書いています。「夏のあいだ、一〇人あまりのCEOを見てきて、完璧なリーダーになるためのレシピなどないことがはっきりしました。成功しているリーダーの共通点は、事業の将来ビジョンが明確であり、目標実現に向かってがむしゃらに働くように周りを鼓舞できていた、ということです」

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