脱北少女は中国で「奴隷」となり、やがて韓国で「人権問題の顔」となった
ニューズウィーク日本版 / 2016年3月3日 16時12分
働き手がいなくなれば、その影響が家族に及ぶのは当然だろう。ただでさえ苦しい生活はさらに苦しくなり、結果的に13歳だった著者は、母との脱北を決意する(一足先に出て行った姉を探したいという思いもあった)。
【参考記事】北朝鮮の「女性虐待」にいよいよメスが入るか
かくして第二部では中国での話になるのだが、そこで脱北者が直面したのはブローカーに自由を奪われ、農家の嫁として売られるために生きる奴隷のような生活だった。
ブローカーたちはみなレイプ魔のギャングであり、たくさんの女性が本当にひどい目にあっていた。ある二十五歳くらいの女性は、脱北の際に橋の上から凍った川に飛びおりたため、長春に着いたときには、腰から下を動かせなくなっていた。彼女の話によれば、ジーファンはそれでも彼女をレイプした。(中略)でも悲しいことに、彼女のようなケースはたくさんあったし、もっとひどいケースもあった。(190ページより)
著者もまた複数のブローカーに管理され、しかし13歳だということからギリギリのところで危機を逃れる(ある時期までは)。ちなみに印象的なのは、ホンウェイというブローカーだ。他の男たちと同じく、ときには暴力的なふるまいをするのだが、著者に人身売買の商売を手伝わせたり、ばらばらになった家族を見つけて保護するなど、悪人になりきれないブレを見せるのである。
私はまだホンウェイを憎んでいたが、それでも一緒に暮らすことには慣れた。彼は最初のうちはきつい態度だったが、時間がたつごとにやさしくなり、しだいに私を尊重し、信頼し、彼なりに私を愛するようになっていった。(183ページより)
著者の人間性がなにかを感じさせたのかもしれない。とはいえハッピーエンドが訪れるはずもなく、ホンウェイの仕事を手伝う過程で再会した父親を癌で亡くし、ホンウェイもギャンブルで身を滅ぼすことになる。著者と母親が死を覚悟してモンゴルに逃げたのは、そうした状況から逃れ、韓国にたどり着きたいという理由があったからだ。
ここから先の展開は、ジェットコースターのように爽快だ。いくつかの障害こそあったものの、それを乗り越えた著者はスポンジのような吸収力で多くを学び、2012年にはソウルの東国大学への進学まで実現させてしまうのである。それまで表に出しようがなかった可能性が、一気に開花したのだ。
そしてさらに大きな契機となったのは、テレビ番組で脱北体験を語ったことがきっかけとなり、ソウルのインターナショナル・スクールでスピーチを行なったこと。その後にインタビューや講演の依頼が増え、「北朝鮮の人権問題の顔」と呼ばれるようになるのである。
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