倹約家も浪費家も「老後破算」の恐れあり
ニューズウィーク日本版 / 2016年3月22日 16時54分
彼らの大半はバブル崩壊とともに、まるで、"もとからそこに存在しなかったかのように"はかなく消えていったが、こちらからすればそれは当然の話だった。逆にいえば残り半分近くは生き残ったわけだけれども、(これは個人的な感覚だが)苦労して育った経験のない彼らには「人と自分を比較したがる」「人の目を異常に氣にする」「壊滅的なくらい打たれ弱い」という致命的な欠陥がある。
だから、つまり時代が傾いていくなか、かろうじて生き残った人たちの脆さがいまになって露わになり、ガラガラと音を立てて崩れはじめたということも妙に納得できるのだ。
現在54歳の夫は、一部上場企業の部長職。年収は約850万円。都内にマンションを購入して、ふたりの娘は国立大学と大学院に通う、絵に描いたような4人家族。けれど、ほとんど貯金はなく、表向きの優雅な家庭とは裏腹に、家計はいつ破綻してもおかしくない状況――自分を取り巻く現実が、どんどん過酷になっていく中で、奈緒子さんは、今の自分は、本当の自分ではないと思うことがしばしばあるといいます。(94ページより)
この女性は50歳だというが、恐ろしいほどの現実感のなさである。夫の給料が下がり続けた結果として母親に泣きつき、ついには母親のお金まで使い尽くしてしまったというが、それこそまさに、バブル世代女性の金銭感覚だ。
こうして読み進めると、「隠れ貧困」は二重構造になっていることがわかる。教育費、住宅ローン、老後費用の負担に押しつぶされそうになりながらも堅実に生きるポスト・バブル世代、そして、自身の立ち位置すら明確に自覚できないアラフィフ女性である。いわば隠れ貧困は、相反する両者の末期的な状況が複雑に絡み合っているからこそ、実態がつかみにくいといえるのではないだろうか?
なお本書の後半では「隠れ貧困」対策がQ&A形式で解説されているので、自分のいる場所を明確にするため、そして、そこからどう抜け出すかを考えるために役立つだろう。
『隠れ貧困――中流以上でも破綻する危ない家計』
荻原博子 著
朝日新書
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。書評家、ライター。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。
印南敦史(書評家、ライター)
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