【再録】念願のカダフィ単独取材、私は砂漠の町へ飛んだ

ニューズウィーク日本版 / 2016年3月24日 18時32分


ニューズウィーク日本版 創刊30周年 ウェブ特別企画
1986年に創刊した「ニューズウィーク日本版」はこれまで、政治、経済から映画、アート、スポーツまで、さまざまな人物に話を聞いてきました。このたび創刊30周年の特別企画として、過去に掲載したインタビュー記事の中から厳選した8本を再録します(貴重な取材を勝ち取った記者の回顧録もいくつか掲載)。 ※記事中の肩書はすべて当時のもの。


※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】生前のカダフィは「国民に愛されている」と言っていた


 アラブ世界には強烈な個性の持ち主が多いが、リビアの最高指導者ムアマル・カダフィ大佐ほどエキセントリックで興味深い人物はまずいない。

 チェ・ゲバラを思わせる革命理論とアル・カポネ流の術策にたけた男に、私は以前から魅力を感じていた。そして本誌のカイロ特派員だった94年、ついにインタビューのチャンスをつかんだ。

 私が面会のアポを取るために用いた作戦は、おべっかと駄々っ子風粘り腰を駆使する古典的手法だ。まずカイロのリビア大使館に日参し、取材の件はどうなったかとしつこく尋ねた。また、ニューズウィークの取材に応じれば、世界中に名前を売れると何度も力説した。

 当時、カダフィへのインタビューは記者たちの夢だった。遊牧民の血を引くアラブ民族主義者。国際テロリストに甘い理想家肌の革命戦士。外泊するときは自前のテントを持参し、メスのラクダのミルクを飲む男......。

 待つこと数カ月、ついに朗報が届いた。リビアの首都トリポリへ行き、次の指示を待てという。だが、国連の制裁下にあったリビアへ向かう飛行機の便はない。

 移動手段はマルタから船か、あるいはカイロかチュニジアのジェルバ島から車を使うしかない。私は飛行機でジェルバへ行き、タクシーでトリポリをめざした。

 旅の途中、チュニジアでは財布を盗まれた。リビアに入ってからは検問でたびたび止められ、猛烈に暑いトレーラーの中で何時間も待たされた。デービッドという名前のせいで、ユダヤ人ではないかと疑われたことも何度かあった。

 ようやくトリポリに着いてから2日後、届いた指示は「じっと待て」。やがて5、6人の警備担当者とともに年代物のプロペラ機に乗せられ、トリポリの東の砂漠にあるシルトへ向かった。

 シルトのホテルでは、シュールな数時間を過ごした。いかめしい顔つきの見張り役は、果物と野菜が踊るアラブのアニメに見入っていた。屈強なガードマンが寄ってきたので、思わず身構えると、スコッチを買わないかと聞かれた。

 深夜になってからボディーチェックを受け、カメラに爆発物が仕掛けられていないか調べられた。案内された部屋に入ると、民族衣装に赤い帽子の「彼」が座っていた。そばには通訳が1人。カダフィは立ち上がり、私と握手した。

世界中から誤解されている

 私が道中の話をすると、カダフィはにんまりと笑った。そして、米政府を揺るがしていたホワイトウォーター事件のことを尋ね、事件はビル・クリントン大統領を失脚させたいCIA(米中央情報局)の陰謀ではないのかと言った。

 私のたどたどしい説明を聞くと、カダフィは椅子にもたれ、しばらく熟考した。インタビューの途中で何度もそうしていたが、沈黙の邪魔をしてはいけない気がした。

 クリントンと自分は似ている、とカダフィは言いだした。誤解の霧に隔てられているが、2人は心の友なんだ、と。

 そんなとりとめもない話の合間に、怒りを爆発させることもあった。86年に米軍がトリポリを空爆したときに幼い娘が殺されたと話し、復讐したいと声を荒らげた。だが、88年のパンナム機爆破事件への関与は否定した。

 2時間の会見が終わりかけたころ、カダフィは詩を書くのが好きだと言った。まぶたが重そうで、疲労が感じられた。自分は世界中から誤解されている――心の底からそう信じているようにみえた。

 帰り際、カダフィの政治理論をまとめたサイン入りの書物を渡された。私と2人で撮った写真は、翌日の全国紙に掲載された。

 私がお礼を述べると、カダフィはまたいつでも来なさいと言ってから、こうつけ加えた。「クリントンに伝えてくれ。CIAに追われたら、いつでも来いと」。私は必ず伝えると約束した。

[筆者]
デービッド・ケリー David Kelly
96年までカイロ在住。00年よりロサンゼルス・タイムズ紙記者。イエメンの米駆逐艦爆破事件やサウジアラビアの自爆テロなども精力的に取材

※この記者によるインタビュー記事はこちら:【再録】生前のカダフィは「国民に愛されている」と言っていた

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[2006.2. 1号掲載]
デービッド・ケリー(元カイロ特派員)

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