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【再録】タランティーノvs.本誌「辛口」映画担当の舌戦

ニューズウィーク日本版 / 2016年3月29日 16時20分

 はい、はい。そうですかい。

――『キル・ビル』にも、そういう要素がもっと欲しかった。

 僕としては、そういうふうに撮影したつもりなんだけどね。役者たちが一息で連続して演じられる限界まで、カメラを回し続けた。

――そう、そのとおりだ。あなたは俳優任せでこの作品を撮っている。実際、役者たちの仕事ぶりには感服する。
 確かに映画は面白かったし、映画の作り方も素晴らしいと思った。でも、「クエンティンは退歩したんじゃないか」と思ってしまったことも事実だ。前作の『ジャッキー・ブラウン』とはまるで正反対の映画になっている。

 うん、うん。いや、そのとおり。

――『ジャッキー・ブラウン』のときは、登場人物をもっとじっくり掘り下げて描いていた。あの映画で、あなたがひと皮むけたと感じた人も多かった。
 それなのに、今回は元に戻ってしまった。意図的にそうしたのだろうが、登場人物の人間的な側面があまり描かれていないのは残念だった。

 ああ。人間的な深みがあるというより、かっこいい登場人物に描いている。

――主人公のザ・ブライドは、生身の女性としての弱い部分も盛り込んだほうが、面白い作品になったのではないか。

 そうは思わない。昏睡状態から目覚める場面で、弱さはたっぷり描いてある。これで、映画の最後まで引っ張っていける。

――『キル・ビル』は、とてもわかりやすい映画だ。それはこの作品のいいところである半面、私に言わせれば欠点でもある。「見せ場ばかりを寄せ集めた映画」という印象を受けた。

 ああ、まさしくそのとおり、見せ場の連続だ。

――あなたの70年代映画への思い入れを投影しているという点ではきわめて個人的な映画だけれど、過去の作品のなかでは最もあなたの顔が見えないともいえる。

 そんなことはまったくない。これは、僕の情熱の映画だ。

 誰だって、自分の作品を発表するのは照れくさい。自分という人間をさらけ出すわけだからね。この映画でも、僕は自分の情熱をすべて表に出すことはしていない。でも、それは見えないところにしっかり隠れている。

 はっきり言えるのは、僕が映画館で観客として『キル・ビル』を見たら、ほかの映画を見たいという気はもう起きないだろうということ。極上のセックスやドラッグみたいに感じると思う。「もうあの娘以外とは寝る気になれない」「またあのクスリでハイになりたい」というふうにね。


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[2006.2. 1号掲載]


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