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同胞の部屋探しを助ける、中国出身の不動産会社社長(後編)

ニューズウィーク日本版 / 2016年4月21日 18時57分

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

 拓拓は昨年、高校を卒業した。私たちはもともと息子が大学に進学し、不動産関係のコースで学んでくれれば跡を継ぎやすいだろうと考えていた。私たち両親がすっかり下地を作ったのだから、彼にすればもってこいの選択だろうと。だが拓拓は自分の道にこだわり、歯科大学を選択した。理由は、あるテレビドキュメンタリーを見たことからだ。それは、食べ物がのどを通らず、つらい思いをしていたある口腔疾患のお年寄りが、すぐれた歯科医師の治療で健康を取り戻したという話だった。この真実のストーリーに感動した拓拓は、シンプルな動機なのだが「歯科を学べば人助けできる」と思った。こうした考えは、あのミッションスクールで受けた「愛」の教育と切っても切れない関係にあるだろう。

日本は「トレーニング」を与えてくれた

 4年前、私は中国留学生学友会の作文コンクールのスポンサーになった。訪ねてきた東京学友会の会長に依頼され、「とてもいい考えだ」と一も二もなく引き受けた。以前は私も文章を書くのが好きだったが、ずっと発表する場がなかった。そこで、作文コンクールのテーマは「心の声」にしようと提案した。思ったことはなんでも書いていい。日本社会へのポジティブな気持ちでもいいし、もちろんネガティブな気持ちでもいい。ただ、自分の目で見た日本社会を本音で話せばそれでいい、とアドバイスしたのである。

 結果、日本全国からたくさんの文章が寄せられた。私は審査には加わらず、ただ授賞式に出席し、ひと言ふた言あいさつをした。

「私たちは、1人ひとりが民間の友好大使にならなければなりません。物事を立派にやれば、それを見た日本人が『中国人はいいな』と思うし、そうでなければ『中国人はよくない』というでしょう。その意味からすれば、私たち1人ひとりの行動が中国を代表しています。そのため日ごろから善行を多く積んで、立派な人間になるとともに、国家のために中国人のよいイメージを作らなければなりません。私の世代はすでに『夕陽紅』〔シニア世代〕になりましたが、あなた方はまさに日ごとに向上しています。将来、中日関係をリードする重責はあなた方、若い世代が担っているのです。皆さんのがんばりに期待します!」



 私はいま、仕事の範囲でしか他人に影響を与えることはできないが、それでは全く満ち足りていない。プラスエネルギーを広く伝え、中日文化交流を促進するプロジェクトをいくつかやりたい。留学生の作文コンクールなどを続けていき、すぐれた作文は文集にして出版する。それをより多くの中国人に読んでもらい、中日両国の人々の相互理解と信頼を促進させたい。とくに中日関係が険悪化した今日、こうしたことをやるのは、いっそう意義深いと思う。

 来日してからの長い年月を振り返ると、自分は社会の最下層から少しずつ成功へと歩んできたのだなと思う。もし当時出国していなければ、こんなに大きな「トレーニング」を受けることはなく、こんなに大きな変化も発生しなかった。もしも「日本によってもたらされた最大のものは何か」と尋ねられたら、「人生のトレーニングだ! 日本社会は、私の真と善への追求を手助けしてくれた」と答えるだろう。

 善は私たち自身に備わるもの、真は私たちが日本人から学び取るもの。この真とはつまり真実、真摯、誠実さのこと。不動産業だけでなく、どんなことでも、私たちはまじめにやらなければならないのだ。

※シリーズ第1回:同胞の部屋探しを助ける、中国出身の不動産会社社長(前編)


『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』
 趙海成(チャオ・ハイチェン) 著
 小林さゆり 訳
 CCCメディアハウス

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