「デジタルデフレ」こそ、世界経済が直面するリスク - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月2日 16時40分
空洞化は恐ろしい速度で進行しており、例えばトヨタ自動車は、長年愛知県の田原工場で作っていた高級車の「レクサス」ブランド製品についても、今はボリュームゾーンの「ES」をケンタッキーで、「RX」をカナダのオンタリオで生産するようになっています。日本が得意にしていた「モノづくり」にしても、その現場はメキシコやベトナム、ミャンマーなどへどんどん流出しているのです。
どうしてアベノミクスの円安が株高を呼び込んだのかというと、「海外で産んだ利益を日本円に換算すると膨張して見える」からであり、それ以上でも以下でもありません。そこには、大きな弊害もなければ明らかなメリットもなかったはずでした。ですが、この「アベノミクスの円安」が、暗黙のうちに日本の産業の空洞化を後押しして来たのは事実だと思います。
そして今は、その行き過ぎが国内経済に大きなダメージを与えつつあります。為替の水準に関しては、1ドル120円にまで下がった一時期の方法論は過去のものとして、現在のような105円から110円といった範囲で推移するようにしておき、同時に税制などを見直して空洞化を抑制する方針に転じるべきだと思います。
筆者個人の主義主張としては、とにかく日本は高い教育水準の維持しているうちに、最先端産業の競争力を回復し、金融を食える産業にすることが最優先課題だと思います。
ですが経済の現況としては、とにかく当面は今ある産業の振興で「食いつないで」行かねばなりません。その産業と雇用がどんどん流出するのは、国の経済としては決して良いことではないのです。規制強化的な発想法はイヤですが、ここまで野放図に空洞化を加速させてきた政財界の姿勢はあらためられるべきではないでしょうか?
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