欧州ホームグロウンテロの背景(1) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月15日 15時48分
【参考記事】テロを呼びかけるイスラームのニセ宗教権威
第一、第二世代の興亡
ケペルが「第一世代」と呼ぶジハードは、ソ連による一九七九年のアフガニスタン侵攻に抵抗した武力闘争を始まりとする。アフガン紛争には、アラブ各国から義勇兵「ムジャーヒディーン」が集まり、ソ連を相手に戦った。
ゲリラ戦を指揮したのが、パレスチナ人の宗教指導者アブドッラー・アッザーム(一九四一 ‐ 八九)である。ヨルダン川西岸ジェニーン近郊に生まれ、ダマスカス、カイロ、アンマンでイスラム法の研究を重ねた後、パキスタンを拠点に対ソ闘争に携わった。敵との一切の交渉を拒否し、民間の犠牲も厭わない強硬姿勢で知られた。
彼は、第一世代ジハードのイデオローグと見なされる。指導者としての立場から、第二世代を率いるオサーマ・ビン・ラーディン、第三世代の理論家アブー・ムスアブ・スーリーらとも親交を結んだ。最終的にパキスタンで暗殺された。
第一世代ジハードは、対ソ戦略を念頭に置く米国や、地域大国イランの影響力拡大を恐れるサウジアラビアから、金銭面や技術面で援助を受けた。
「ソ連がアフガンから撤退し、さらに一九九一年にソ連が崩壊した時、ムジャーヒディーンたちは自分たちの戦いこそがソ連を倒したと思い込みました。米国やサウジから支援されたことなどすっかり忘れたのです。その後彼らは、新たな戦場を求めてエジプトやアルジェリア、ボスニア、チェチェンといった場所に転進し、地元の親欧米政権や元親ソ政権を相手に武装闘争を繰り広げました。自分たちの行為がイスラム教徒一般の支持を得られると信じてのことですが、大衆は付いて来ませんでした」
ケペルによると、エジプトの「イスラム集団」が九七年にルクソールで起こした観光客襲撃事件などを最後に、第一世代のジハードは終わりを遂げた。
第一世代の失敗を教訓として方針を見直したのが、第二世代ジハードの中心となった国際テロ組織「アル・カーイダ」である。指導者はオサーマ・ビン・ラーディンだが、その副官として理論を固めたのがエジプト人のアイマン・ザワーヒリー(一九五一 ‐ )だった。
第一世代が領土の奪還を目的とし、目前の敵と戦ったのに対し、第二世代は遠くの敵、すなわち米国を標的に定めた。まず米国を攻撃することで、最終的に中東各地の親米政権を倒せると考えた。
「それは、ビリヤードと同じ発想です。一つの玉を突いて、他の玉を連鎖させる。驚くべきスペクタクルを演出して米国を突くことによって、その弱さを世界に知らしめ、各国の大衆をそれぞれの政府への攻撃に駆り立てようとしたのです」
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