欧州ホームグロウンテロの背景(2) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月16日 16時3分
一方で、八七年以降はアフガニスタンに何度も渡航してアッザームやビン・ラーディンの知遇を得た。ビン・ラーディンの広報役を担い、欧米メディアからのアプローチを仲介したこともある。米CNN記者ピーター・アーネットが九七年に実現させたビン・ラーディンへのインタビューを取り持ったのはスーリーだった。もっとも、スーリーとビン・ラーディンとの関係はかなり緊張をはらんだものだったといわれる。スーリーが敬愛したのはタリバーンの指導者オマル師で、ビン・ラーディンについては「独裁者」「ファラオ」(エジプトの王)などと呼んで嫌悪感を示すことがあった。九・一一テロにも当初批判的だった。
スペイン旅券を持つ彼は各地を移動し、アルジェリアの「武装イスラム集団」、ロンドンの過激派イスラム教指導者、二〇〇四年にマドリードで起きた列車連続爆破テロの容疑者グループとも親交を結んだ。
テロに関与したなどの疑いで米国とスペインの両捜査当局から手配された彼は、〇五年にパキスタンで拘束され、米軍に引き渡された。身柄は、対テロ戦争を進める米国と当時まだ良好な関係を維持していたシリア当局の管理下に置かれた。以後、消息は途絶えた。
「二〇一一年にシリア当局が彼を無傷で釈放した、とのうわさが出ました。過激派の内部に彼を戻らせてジハードのウイルスをまき散らし、組織を攪乱させるため、といいます。ただ、その後四年間にわたって動向が一切漏れないのは、どう考えても変です。シリアで情報が途絶えるのは、決していい知らせではありません。もしスーリーが生きているとすれば、案外とフランスに舞い戻ってきて、ガソリンスタンドの従業員とか原発の技師とかをしているかも知れませんが」
スーリーは相変わらずシリアで獄中にある、との情報もあり、確かなことはわからない。ただ、本人の運命と関係なく、彼が残した思想は現代のサイバー空間を広がり続けている。拘束される直前、スーリーは一六〇〇ページに及ぶ大論文『グローバルなイスラム抵抗への呼びかけ』を、ネットを通じて発表した。第三世代ジハードの理論と戦略を確立し、多くのテロリストたちに共有されるようになった文書である。
手づくりのテロ工房
イスラム教徒の大衆を動員し、世界を制覇することにスーリーの目的があるのは、アル・カーイダと同じである。ただ、彼が描く戦略は、アル・カーイダのものといくつかの点で大きく異なっている。
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