欧州ホームグロウンテロの背景(2) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月16日 16時3分
まず、標的はもはや、米国ではない。
「ビン・ラーディンは、米国をひざまずかせることが可能だと思っていたが、できなかった。そういうやり方ではだめだ、欧米文明の弱点を突かなければならない、それは欧州だ。スーリーはそう考えたのです」
手法も根本的に変わった。米同時多発テロのような大スペクタクルは必要ない。安上がりの作戦をあちこちに展開するだけで、欧州社会はパニックに陥るだろう――。
【参考記事】銃乱射に便乗するトランプはテロリストの思うつぼ
手法が異なる以上、アル・カーイダのようなピラミッド型の組織も不要だ。自立した個人や小さな組織が網の目のようにつながり合うネットワーク型の組織こそ、現代のテロには都合がいい。
「第三世代は、アル・カーイダとは全く異なるモデルを組み立てました。熟練の実行部隊を派遣するのではなく、現地に暮らす若者に対し、原理を薄く植え付ける。一度ぐらいは中東の戦場で訓練を施すかも知れないけれど、あとは彼らの自主性に任せるのです」
こうして実現した典型的なテロが、二〇一五年一月七日に起きたパリの風刺週刊紙『シャルリー・エブド』編集部襲撃事件だった。その容疑者たちの軌跡を追って見ると、テロリストとしての彼らの今日性が浮かび上がってくる。
『シャルリー・エブド』は、毒を含んだユーモアとどぎつい皮肉で知られ、ごく一部の熱烈な支持を集めると同時に多くの顰蹙も買ってきたメディアである。表現の自由の絶対性を掲げ、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画をたびたび掲載したことで、過激派から脅迫を受けていた。その編集部をサイード・クアシとシェリフ・クアシの兄弟が襲撃し、風刺画家や記者、関係者ら十一人を殺害した。兄弟と呼応したアメディ・クリバリが二日後、パリのユダヤ人スーパー「イペール・カシェール」で四人を殺害して立てこもり、これと前後して警察官二人も犠牲になった。三容疑者はいずれも、治安当局との銃撃戦の末に射殺された。
クアシ兄弟はパリの極貧移民家庭に生まれたアルジェリア系フランス人で、両親を失ってフランス中部トレニャックの孤児院に預けられた。子どもの頃は宗教にほとんど関心を抱かず、兄は料理人を、弟はサッカー選手を目指す元気な少年だったという。しかし、原理主義に近い親戚に感化され、出入りするようになったモスクで過激派組織「イラクのアル・カーイダ」の関係者と知り合い、次第にテロのネットワークに近づいた。弟は特に、収監先の刑務所内で出会ったフランスのアル・カーイダ組織の中心人物ジャメル・ベガルから大きな影響を受けたといわれる。
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