レイプ犯と銃乱射犯に共通する「本物の男」信仰
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月16日 19時15分
同性愛者に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)も、女性に対する暴力(報道によれば、マティーンは元妻に暴力を振るっていた)も、その根っこには硬直した父権主義的な男性性の概念がある。女性やゲイやバイセクシュアルの男性を見下ろして、「俺は本物の男だ」と威張りたがる心理だ。同性に性的な魅力を感じたことがある男性はなおさら、同性愛者を激しく憎悪し、攻撃性を爆発させがちだ。
【参考記事】バングラデシュ唯一のLGBT誌エディター、なたで殺害
社会学者のマイケル・キンメルが論じているように、銃乱射事件が起きるたびに銃規制や精神疾患、さらに今回の事件では、犯人がイスラム教徒であることに人々の目が向いているが、これらの事件を結び付ける最も強力な要因が見逃されている。無差別の銃乱射事件の犯人はほぼ例外なく男であることだ。キンメルはその著書『ガイランド(男の国)』で、多くの男の子は大人の男に成長する過程で「『本物の男』に憧れ、自分はそうなれるはずだと自惚れて、それを妨害する者は抹殺していいと思い込む」と述べている。
ここで言う「抹殺」は、文字通りの意味だ。
学校で起きる銃撃事件では、犯人の少年が周囲から同性愛者と見られることを恐れ、同性愛者やそれとおぼしき生徒を襲うことで、自分はストレートだと同級生にアピールしようとするケースが少なくない。
男性が同性愛者に恐怖心を抱く心理は分からないでもない。女性は当たり前のこととして耐えているが、性的興味の対象にされ、獲物を見るような目で見られれば、身の危険を感じるものだ。さらに男性は同性に性的な関心を持たれると、自分が女になったような気がして、受け身の弱い立場に置かれた気分になるのだろう。男らしさにこだわる男性にとってはそれだけでも脅威だが、同性に見つめられることに密かに快感を覚えた場合は、自己嫌悪とないまぜになって猛烈な憎悪のとりこになる。
「俺は本物の男で、女を性的に支配できる」──そんな妄想にとらわれていたマティーンは、公共の場でキスする男性のカップルに怒りを燃やし、同性に引かれる自分を嫌悪して、男性性の幻想を揺さぶる同性愛者を抹殺しようとしたのかもしれない。
最大公約数
銃乱射による大量殺人は、恐ろしいことに、アメリカ文化に特有の現象になりつつあるようだ。自分たちの特権を守り、自らのアイデンティティーの拠り所である序列を守るために、アメリカの中のある種の男たちが潜在的に共有している方法だ。
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