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EU離脱なら失業と新自由主義がやってくる

ニューズウィーク日本版 / 2016年6月21日 18時50分

 歴代のイギリス政府はEU加盟後も新自由主義的な政策を推し進め、EU基準の社会政策はことごとく跳ね返してきた。たとえばイギリスは、欧州裁判所でEU労働時間指令に挑んだ。イギリス政府がEUと交渉し、すでに同指令の効力を著しく弱めていたにもかかわらずだ。

 イギリスは、EUの意思決定を加盟国間の交渉で行うことにこだわり、欧州議会への権限付与を阻み、EUの民主化にも反対してきた。そればかりか、EUの財源から還付(リベート)を受け取る特権にしがみついて、加盟国の連帯のためにかかる費用負担も他のEU諸国に任せている。最近の難民危機やギリシャ債務危機の救済でも、ほとんど負担はしなかった。

 イギリスが、EUのせいで公共サービスや鉄道事業の再国有化を見送っているという議論も同様の誤謬だ。

 イギリスの公益事業の民営化は独自で進めた部分が大きく、欧州統合とはほとんど無関係だった。「EU鉄道指令」によって鉄道事業は民間企業に開放されたが民営化を義務づけられたわけではない。事実、EU内主要国の中で民営化を実施したのはイギリスだけだった。

 もしイギリス左派政権が鉄道や他の公益事業の再国有化を試みるとしたら、EUのことなど考えずにやるだろう。再国有化の主な障害は、イギリス国内、とりわけ民間の競合企業や有権者だ。イギリスの有権者は、左派が好むと好まざるにかかわらず、ヨーロッパ大陸のほとんどの国々に比べて、はるかに経済に関して保守的だ。

 これらの問題のせいでEU離脱を支持しようと考えているイギリスの左派は、むしろイギリスを離れて国外に住むことを考えるべきではないだろうか。

イギリス政府よりEUのほうが優しい

 EU離脱は、結果として左派政権がそれを引き継ぐ場合にのみ左派の利益にかなう。離脱後、労働党が政権をとる必要があるが、それ以前に労働党自身がさらに左寄りに生まれ変わる必要があるだろう。

 だが真の左派がイギリスで政権を握って賃金や社会保障給付を上げてくれるというかすかな望みと引き換えに、EUが与えてくれた有給休暇やその他の社会保障を見限るのはかなり危険な賭けだ。EU離脱後、少なくとも短期的には、保守党のボリス・ジョンソン前ロンドン市長のように、サッチャー式の新自由主義改革への野望を隠そうともしない人々が権力を握る可能性が強い。

 実際には、労働党は政権を握るどころか長期的には完全に無能化してしまうだろう。もしイギリスがEU残留を望むスコットランドの多数意思に反してEUを離脱すれば、スコットランドは再び独立を試みるだろう。そしてスコットランド票がなくなれば、左派の票田は干上がってしまう。

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