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「世界最大の書店」がなくなる日

ニューズウィーク日本版 / 2016年6月28日 16時0分

 これからの出版社は「希望販売部数ではなく、確かな販売予定部数を印刷する必要が出てくる」と、業界アナリストのマイク・シャツキン氏は述べている。そんなものは判っていないから、とにかく控え目に刷るしかない。

チャレンジできない出版と印刷エコシステムの風化

 出版社が発行点数を絞り、実績や知名度で著者・企画を選び、著者への「生活金融」とも言える契約前渡金の対象を減らし、調査・取材費がかかるノン・フィクションの出版はさらに細っていく。単純化していえば、印刷本(に比重を置く)出版がより難しくなるということだ。

 周知のように、書籍出版は知識・文化のコミュニケーションにおいて、前衛的・先進的役割を果たしてきたが、出版社に余裕がなくなれば、そうした機能は衰弱する。出版社は「紙かデジタルか」を問う以前に、「デジタルか廃業か」を問う必要があるだろう。それほど印刷本の出版を経済的、社会的に成立させることは困難になってくる。

 E-Bookの売上が米国の業界統計で下落を始めてから、業界には「紙が復活した」などという幻想あるいは多幸状態が広がっている。これはE-Bookを(出版の商品として期待するよりも)脅威として心配していたことを示すものだ。自主出版という形をとった出版社離れで、大手出版社がE-Book市場で独り負けし、それによって著者からの期待も失っていることを深刻に考える動きは、まだ(最近の価格引下げ以外には)見られない。

 B&Nが消滅したら、デジタル/アマゾンにやられた、とメディアは言うのだろう。しかし、実際には、デジタル(Nook、B&Nが開発した電子ブックリーダー)で大きな可能性を手にしながら、事業の再構築(店舗のリデザインとオンラインストアの統合)に躊躇したのが敗因である。このことは改めてじっくり検討する価値がある。筆者は「紙とデジタルにこだわらずに消費者第一」という原則に立てなかったためだと考えている。

 消費者がハードカバーとソフトカバーを選択できるように(いやそれ以上に原則的に)紙とデジタルを選択できるようにすることは、出版社あるいは書店の基本的な責任であると本誌(EBook2.0 Magazine)は考えている。後の世代から見たら、21世紀初頭の出版界のデジタル恐怖症は奇異に感じられることは間違いない。


○参考記事
Pulp Friction: If Barnes & Noble goes out of business, it'll be a disaster for book lovers., By Alex Shephard, New Republic, 06/20/2016
If Barnes & Noble Goes Out of Business, Would Anyone Care?, By Nate Hoffelder, The Digital Reader, 06/21/2016
If Barnes & Noble collapses, then what?, By Chris Meadows, TeleRead, 06/21/2016
Barnes & Noble Reports Fiscal 2016 Year-End Financial Results, B&N Press Release, 06/22/2016


※当記事は「EBook2.0 Magazine」からの転載記事です。


鎌田博樹(EBook2.0 Magazine)


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