守ってもらいたい人々の反乱──Brexitからトランプへ
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月28日 16時0分
守ってもらいたいという意味では、保護主義に関する世論も興味深い。トランプ支持者は、FTA(自由貿易協定)に反対する割合が高い。保護主義的な傾向は共和党支持者全体に広がっており、FTAに反対する割合は民主党支持者の方が低い。「共和党=自由貿易支持」という構図についても、少なくとも各党の支持者のレベルでは通用しなくなっている(図表2)。
小さな政府ではなく「自分のためだけの政府」
トランプ支持者は、高齢者と白人のワーキング・クラスに多い。このうち、とくにアメリカの高齢者に関しては、EU離脱派と似たような発想、すなわち、「他者と分け合いたくない」という発想が観察されている。
アメリカの高齢者のあいだでは、社会保障制度の拡大に対する支持が低下してきた。背景にあるといわれるのが、アメリカ特有の医療保険制度だ。アメリカの高齢者が社会保障制度の拡大に懐疑的になってきた度合いのうち、その約半分は医療保険拡大への懐疑的な意識の高まりで説明できるという。
高齢者が恐れるのは、医療保険制度の拡大によって、自らの特権が侵害されることである。アメリカの公的な医療保険制度は、高齢者向けのメディケアと低所得者向けのメディケイドに限られる。メディケアという特権を持つ高齢者にとって、さらなる医療保険制度の拡大は、自らと異なる人々の利益となるに過ぎない。それどころか、拡大の財源としてメディケアが使われようものなら、自らの利益が損なわれる。
言い換えれば、高齢者が求めているのは、小さな政府というよりも、自分のためだけの政府である。大きな政府として忌み嫌われるのは、自分以外に奉仕する政府だといって良いだろう。
小さな政府論の急先鋒とみられてきたティーパーティー運動も、背後にある衝動は同じである。ティーパーティー運動は、「政府は私のメディケアに手を出すな(Keep Your Government Hands Off My Medicare)」という標語を使ってきた。「そもそもメディケアは政府の制度じゃないか」とあざ笑うのは簡単だが、そこには特権喪失に対する高齢者の危機感が見事に映し出されている。
政府に頼らざるを得ないワーキングクラス
ワーキングクラスは、政府に頼らざるを得なくなっている。ワーキングクラスとは、製造業の労働者など、所得階層でいえば「中の下」に属し、それほど学歴が高くない人々を指す。グローバリゼーションや技術革新に脅かされ、貧困への転落を恐れている人々だ。
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