ロシアは何故シリアを擁護するのか
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月29日 17時37分
このような意味では、ロシア海軍が二〇〇八年からソマリア沖に、二〇一三年からは地中海に艦艇グループを常駐させていることや、二〇一〇年の「国防法」改正で海賊対処任務を国外での軍事力行使の要件と位置付けたことなどは、西側のシーレーン保護とは同列に位置付けることはできず、ロシア独自の論理を考えなければならないことになる。
ロシアは何故シリアを擁護するのか
(1)武器でも基地でもなく
そこで、本稿のはじめの問いに戻りたい。すなわち、ロシアの中東に対する依存度が低いならば、ロシアは何故中東に関与するのか、ということである。
シリアに関して言えば、同国がロシア製武器の市場であることや、タルトゥース港にロシア海軍の拠点が置かれていることなどがよく引き合いに出される。しかし、これらは事実であるにせよ、ロシアのシリア関与の主要因であるかどうかはまた別問題である。
たとえば武器市場についてであるが、内戦前にシリアが二〇〇七年から二〇一〇年にかけてロシアと結んだ武器輸出契約はせいぜい数十億ドル規模であり、年間一五〇億ドルの武器輸出額を誇るロシアにとっては死活的なものではない。実際、内戦勃発によってシリアへの武器輸出が困難になった後もロシアは新規市場を開拓し、武器輸出額に大きな落ち込みは見られない。
さらにサウジアラビアは、ロシアのシリア支援を手控えさせるため、一〇〇億ドル規模の武器購入をロシアにたびたび持ちかけてきたが、ロシアを翻意させるには至っていない。ロシアがシリアへの軍事介入を開始する前の二〇一五年六月にも、サウジアラビアは、ムハンマド副皇太子兼国防相をサンクトペテルブルグ経済フォーラムに参加させて(これはシリア内戦勃発後初のサウジアラビア高官の参加であった)大規模対露投資をちらつかせたうえ、これと同時期にサウジアラビア軍事代表団がモスクワ近郊で開催された武器展示会を訪問してロシア製兵器の購入について話し合った。だが、ロシアはシリア支援の姿勢を改めず、サウジアラビアへの武器輸出話も下火となった(一〇〇億ドル相当の武器輸出契約が進められているという報道が二〇一五年一一月にあった)。
加えて、シリアは大口顧客ではあっても決して優良顧客ではない、という側面にも注意する必要がある。他の中東諸国と異なり、大規模産油国でないシリアはロシア製兵器の購入資金が充分とは言えず、ロシアは前述の大型契約に当たってソ連時代の一三四億ドルの債務のうち、七三%にあたる九八億ドルを帳消しにすることを余儀なくされている(3)。
この記事に関連するニュース
-
軍事専門家が説く、情報分析の「罠の罠」の正体 分析対象に接近すればするほど陥りやすくなる
東洋経済オンライン / 2024年11月25日 15時0分
-
トランプは威信を懸けてウクライナを停戦させる 「威信」こそがアメリカファーストの根幹だ
東洋経済オンライン / 2024年11月13日 15時0分
-
レバノン停戦交渉に進展、ロシアが支援可能=イスラエル外相
ロイター / 2024年11月12日 7時50分
-
北朝鮮軍に"頼る"ロシアの姿勢が激変した事情 ついに交戦開始、北朝鮮側が得るものは?
東洋経済オンライン / 2024年11月6日 10時0分
-
ウクライナ侵攻で投入される北朝鮮兵は「突撃部隊」 兵士報酬ピンハネ、実戦経験のメリットも。日本にも影響?
47NEWS / 2024年11月5日 10時30分
ランキング
-
1中東、レバノン停戦を歓迎=イラン「犯罪者の処罰」訴え
時事通信 / 2024年11月27日 19時29分
-
2ウクライナ軍が米供与の「ATACMS」でロシア西部を攻撃 ロシア国防省が発表
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月27日 10時12分
-
3イスラエルとレバノンが停戦合意、60日の戦闘停止へ…ネタニヤフ氏「ヒズボラが違反すれば攻撃」
読売新聞 / 2024年11月27日 11時46分
-
4元首相派、デモ一時中止=首都で衝突、500人超逮捕―パキスタン
時事通信 / 2024年11月27日 15時36分
-
5ウクライナ代表団が訪韓、武器支援を要請=報道
ロイター / 2024年11月27日 14時25分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください