ドイツの積極的外交政策と難民問題
ニューズウィーク日本版 / 2016年7月1日 15時42分
トルコのエルドアン大統領の権威主義的な政策展開にはドイツでは批判の声も大きい。とりわけトルコ内クルド人に対する抑圧的な政策は常に批判の対象となっている。しかし、難民危機への対応はトルコとの緊密な協調をメルケル政権にとっても不可欠なものとした。地域大国であり、NATOのメンバーであり、シリアと長い国境を接するトルコの協力なしに難民問題を解決の方向に向かわせることはできない。シリア難民の多くはトルコに入国し、そこでの生活状況の悪化からドイツを目指すのである。そのためメルケル首相とシュタインマイヤー外相はトルコをEUへの難民流入抑制のキープレイヤーとして認識し、EUが協調して対トルコ政策を展開することを求めているのである。
【参考記事】ドイツ議会がアルメニア人「虐殺」を認定、の意味
トルコとの関わり方のみならず、対中東政策全般を考えてみても、ドイツ外交は厳しい試練にさらされている。二〇一五年一一月にパリで発生した同時多発テロは、独仏協調とEUの連帯という点からもドイツをより強く中東に関与させることとなった。
フランスはシリア国内のテロを実行したIS(イスラム国)への報復のために空爆を強化したが、ドイツはフランスを支援するために、自らは空爆は行わないとしても、空爆のための偵察・情報収集飛行を実施したり、地中海に配備されたフランス艦船の警護を実施している。
これはフランスがEU条約第四二条七項の発動をもとめ、EU理事会において承認されたためである。このいわゆる連帯条項は、あるEUの構成国が軍事的な攻撃を受けた場合に他のEU構成国が相互に可能な限りの手段を用いて支援する義務を規定している。このような条項が規定された背景にはアメリカに対する同時多発テロがあったが、二〇〇九年にこの規定がリスボン条約に規定されたときには実際に発動されるとは想定されておらず、注目されることはなかった。
EUではもう一つの連帯条項がEUの活動の詳細を規定している機能条約(TFEU)の第二二二条にも規定されており、テロや自然災害の場合に軍事的な手段も含めた支援を行うことを規定している。TFEU第二二二条はEU機関と制度の利用を規定していることがEU条約第四二条七項とは異なる。第四二条は構成国による自発的な協力義務を規定している。
ドイツにとって独仏関係はEU内における最も重要な二国間関係であり、フランスから支援を要請されれば、戦後ヨーロッパの統合と和解の中軸となってきた独仏関係のためには最大限の協力を行わざるを得ないのである。ドイツは既に二〇一四年からイラクのクルド勢力に対してISと戦うために軍需品の供与を行い、紛争当事者に軍需品の供与を行わないという政策を転換し、中東地域への関与の度合いを強めていた。フランスの要請に基づきドイツ連邦議会は短期間のうちにドイツ連邦軍を派遣することを決定し、さらにシリア問題に深く関わるようになった。
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