ドイツの積極的外交政策と難民問題
ニューズウィーク日本版 / 2016年7月1日 15時42分
第二次世界大戦後のドイツは過去の軍事的行動により大きな惨禍をもたらした反省から、軍事力の行使には非常に慎重で、同盟の防衛のみを軍事力行使の対象としていた。
しかし冷戦終焉後の国際環境の変化とドイツ統一によって、ドイツに期待される役割も変化した。一九九四年の連邦憲法裁判所判決によって連邦議会の同意があれば、世界のどこでも、どのような軍事行動でも可能となっていたが、従来の軍事力の行使には抑制的で、国連、NATO、EUなどの多角的な国際的枠組みの中でのみ軍事的な行動を行うという基本姿勢は大きく変わらなかった。
またメルケル首相の下でも、二〇〇九年から二〇一三年末までの自由民主党(FDP)との連立期にはヴェスターヴェレ外相の下で紛争地域への関与には抑制的な政策がとられており、二〇一一年のNATOによるリビア空爆にドイツは参加しなかった。二〇一三年一二月に第三次メルケル政権が大連立政権として発足すると、第一次メルケル大連立政権でも外相を務めたシュタインマイヤーの下でドイツ外交は積極的な関与の方向に舵を切ることとなった。
シュタインマイヤー外相による「積極的外交政策」は、EUにさまざまな危機が襲いかかる時期と符合した。ロシアによるクリミア半島の併合とウクライナ東部での行動は冷戦後のヨーロッパに再び地政学的な要素が戻ってきたことを象徴するものであった。またギリシャ債務危機は欧州統合のあり方に疑念を抱かせ、戦後の統合コンセンサスを脅かすものでもあった。いずれのケースも、冷戦後のヨーロッパには周囲に仮想敵国がなくなり、同時にEUの統合は逆戻りすることなく維持されるという長年続いた認識を揺るがすものであった。
シュタインマイヤー外相は、ドイツはヨーロッパのなかで大きく重要な存在となっているのであるから国際的な問題にこれまでより積極的に関わるべきであり、その際には外交のみならず、軍事的な関与も排除されないとの姿勢を示してきた。自らの影響力に鑑みて、国際的な責任に背を向けることはできないのであるから、より積極的に責務を引き受けようとする外交姿勢を明確にしたのである。
ウクライナ・クリミア危機に際してドイツはロシアやウクライナ、フランスやポーランドなどのEU諸国と非常に緊密な協議を行い調整に努めたことは積極的外交政策の象徴であった。もっとも、問題はドイツの仲介や調整がどの程度結果を変えたかということでもあり、その点で疑問は残る。軍事的な超大国でもないドイツが、軍事力の行使をいとわない大国に対して持つ外交的な影響力にはおのずと限界があるといえよう。
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