グーグルでヨガを広め、マインドフルネスの導き手となった男
ニューズウィーク日本版 / 2016年7月23日 6時47分
実は、最も重要な"テクノロジー"は私たち自身の中にあるとカライル氏は言う。それが、脳と心、体、呼吸、意識の集合体であり、それを彼は「インナーネット(inner-net)」と呼ぶ。IT機器から定期的に離れ、その「インナーネット」とつながり直すことの大切さを説いているのだ。
内的なテクノロジーを最適化するのに有効なのがヨガだ。本書によれば、体と呼吸に意識を集中することで、必然的に自分自身と向かい合うことができる。ほんのわずかな時間でも毎日エクササイズを続けることで、意識の高い状態が維持でき、より困難な状況でも最適な判断を下せるようになる。さらに、相手に対する思いやりの心が生まれ、人との会話の質も向上するという。
カライル氏のアドバイスは、とにかくまず、「一度にひとつのことに集中する」こと。マルチタスクは注意力を分散させ、作業効率の低下につながる。次に、「意義と目的を見つける」。例えば、自分にとって大切だと思えることを紙に書き出し、その中から本当に重要な項目を5個以下に絞り込む。優先項目に意識を集中させることで物事が効率よく片付き、心にゆとりが生まれる。
また、自分のための時間を確保するために、オンライン秘書などのアウトソーシング・ツールを活用する手もある。実際に、カライル氏もそうやってヨガを教える時間を作っているという。メッセンジャーアプリの「Googleハングアウト」を使って、遠いアフガニスタンにいる友人と「感謝のリスト」を交換するのも、マインドフルネスの実践のひとつだ。
マインドフルネスのノンフィクションでもある
興味深いのは、本書『リセット』が、カライル氏の実体験に基づくノンフィクションとしても読めることだ。
2013年、南アフリカのネルソン・マンデラ死去の報を受けると、カライル氏はいち早く「Google+(グーグルプラス)」で追悼イベントを立ち上げ、世界の人々と共有する企画に着手する。志を同じくする仲間たちとともに、コミュニケーションツールを駆使して一大プロジェクトを実現するまでの軌跡が語られていく。
デズモンド・ツツ元大主教、ダライ・ラマ14世をはじめ、実業家のリチャード・ブランソン氏など、マンデラ氏と交流のあった著名人たちに参加を呼びかけ、見事に成功させる。まさに、マインドフルネスのなせるわざなのだ。追悼イベントの最後にダライ・ラマ14世は、人類が困難に直面したとき、「力(武力)ではなく、思いやりの心をもち、憎しみを捨てることだ」と語り掛ける。
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